spatium artis ( 2015.1.26 uploaded )
Morte della Vergine
  聖母マリアの死
1601-06
Oil on canvas,
369 x 245 cm
Museo du Louvre,
Paris

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■梗概

 真ん中に横たわっている女性の頭に光輪がついていなければ、たんなる臨終の風俗画である。
 《聖母マリアの死》。カラヴァッジョの最高傑作のひとつである。

 ほんらい、マリアの死と転生はより華やかに、あるいはより厳かにあってしかるべきであるが、鬼才カラヴァッジョは恐ろしいほどの写実と現実感覚を用いてこの主題を創作した。マリアの青白い表情、だらりと垂れ下がった左手、裸足の姿は簡素極まるベッドに寝かされて、被昇天の兆しすら見られない。
 ローマのサンタ・マリア・デッラ・スカーラ・イン・トラヴェステヴェレ聖堂のために1601年に注文されたこの絵画だが、完成したものは聖堂という場所にふさわしくないと受け取りを拒否された。当時の感覚からすれば当然であろう。

 しかし今の世にこの作品が現前すると、そのリアリティと「キレイ事でない臨終」の姿はより我々の心を打つ。現実的な喪失感を共有する。むしろ、こうあってしかるべきなのだ。彼らは、そして我々は一度は聖母を喪失したのだから。
 粗末な天井の上部に無造作にかけられている真紅の布ひだが、その劇性を高めている。


横たわるマリアと、そして手前で憔悴するマグダラのマリアと思しき娘。
このマリアを描くにあたって、カラヴァッジョは入水自殺した娼婦の死体をスケッチしたとか何とかいう話もあって、確かにそういえばそんな雰囲気だと思うと同時に、現実主義といっても程があるのではないのかという気もしないでもない。

しかしここにあるのは厳密な意味での一個の死、そしてそこはかとない哀しみ、である。非キリスト教徒であろうとも、それを共有せざるをえない。

聖ペテロとヨハネと思しき人物。

マリア以外の人間の顔には一様に影がかかっており、ただ哀しみに打ちひしがれているということ以外、はっきりとした表情を読み取ることはできない。
劇的な明暗表現で描かれた主題は、ただ悲しさのみが支配している。

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