spatium artis ( 2015.1.23 updated )
San Lucas como pintor, ante Cristo en la Cruz
  磔刑のキリストを描く聖ルカ
c. 1630-39
Oil on canvas,
105 x 84 cm
Museo del Prado,
Madrid

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■梗概

 「修道院の画家」スルバランらしい作品の一つ。
 派手な装いはどこにもない。背景もなし、派手なアクションもなし、鮮やかな色彩もない。ただあるのは、瞑想的な時間、仏教的にいえば「認識自在」的な時間のみである。晩年に俗受けがしなくなったのも故なしとしない。

 聖ルカは現在でも「聖路加病院」などに名前が残っている聖人のひとり。福音史家。ギリシア人。シリアのアンティオキア生まれ。アンティオキアにおけるキリスト教共同体の最初期のメンバーである。医者であったとされているため、医者および薬剤師などの守護聖人と、また絵をよくしたという伝説から、画家組合の守護聖人とされることが多い。文芸にも通じ、彼の端正なギリシア語で書かれた福音書および使徒行伝は名文の誉れ高い。84歳まで生き、未婚のまま亡くなったということである。

 この絵に描かれている聖ルカは、画家スルバラン本人であるという説があり、一方この絵が成立した際にはスルバランは40歳前後であり描かれたルカは年を取り過ぎているという反論もある。年齢だけを考えると確かにこの説は疑わしいが、しかし絵を描く聖ルカを描く修道院の画家スルバランに、聖ルカに対する同一化意識がなかったはずはない。
 個人的にはこの味わいのある、巧まずして信仰がにじみ出る初老の画家ルカ、スルバランでもあると思いたい。


絵の中の絵ということになっているが、実にリアルなキリスト。

" INRI " とは、"Iesus Nasarenus Rex Iudaeorum" の略。ラテン語で、「ユダヤの王、ナザレのイエス」という意味である。ユダヤ語は語順がどうなってもいい屈折語だが、アトリビュート的にいえばこの INRI という並びでキリストを示す。

右手を胸に当て、敬虔な表情で磔刑図を描く聖ルカ。

スルバランはこういった、敬虔で静謐な表情を描かせたら右に出るものはない。それらは他でもなく、自分自身の信仰心がにじみ出るが故であろう。

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