モントゥー晩年の第2。Amazonでは見あたらなかったが、手兵ロンドン交響楽団を指揮した同曲が手に入りそうであればそちらを。ブラームスを愛した巨匠らしい、柔らかくて自在で、自然に呼吸するかのような演奏である。ブラームスとともに歌い、ともにたゆたい、ともに瞑する。




ショルティの独墺交響曲は基本ダメである。どれもこれも輪郭の柔らかさが全く出ていなくて、上等のフィレをウェルダンで焼いたようながっかり感を味わうのが常だが、このブラームス第2番だけは素晴らしい。強力な推進力はそのままに、音感が瑞々しく、第4楽章などペルチャッハの清涼なクウキをそのままパックしたかのようだ。




ミスター・ロマンティックともいうべきバルビローリの、VPOと組んだブラームス。全曲出ているが、2,3,4とどれも絶品。特に偶数番号、その優美さが心に迫る。寂寥感の甘美さを味わい尽くす。



あと第2でいえば、ベーム/VPOも、響きが凝縮しすぎている感もあるがなかなか素晴らしい。ベームの演奏を更に煮詰めて乾かしたのがヴァント/北ドイツの演奏。たまに聴くと面白いが、基本、乾物系である。特筆すべきはやはりクライバーの演奏だが、DVDでしか出ておらず、正規盤ピュアオーディオが手に入らないのがとても残念だ。チェリビダッケ盤は名盤であると認めるにしくはないのだが、残念ながらあまり楽しくない。テンポの揺動に流れを感じない。まるで宗教家の演説のようだ。心をもっていかれそうになると警戒してしまう。

【参考リンク】

クライバー/VPOのブラームス交響曲第2番(DVD)
 ▽ Johannes Brahms
Symphony No.2 in D-Dur op.73
  交響曲第2番 ニ長調 作品73


■作曲 1877年
■初演 1877.12.30 ウィーン
      ハンス・リヒター指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による



ブラームス 交響曲第2番全曲+モーツァルト交響曲第36番

C.Kleiber / Vienna Philharmonic Orchestra
モーツァルト36番から始まる。ブラームスは31分くらいから。第2主題リズムの処理の仕方など、クライバーは指揮姿を目の当たりにすることによってより、彼独特の音楽リズムの作られかたがわかる。誰も真似できない、躍動する演奏。

《楽器編成》
Fr. 2 Ob. 2 Cl. 2 Fg. 2
Hr. 4 Tromp. 2 Trb. 3 Tuba Tim. 2
1st Violin 2nd Violin Viola Cello C.bass


■概要
 周知のことであるが、ブラームスは交響曲第1番を作るのに何と20年もの歳月を費やしている。交響曲一曲に20年である。交響曲の作成にかかる以前に既にピアノ曲などで名声を得ていた彼は、交響曲を書けとうるさい周囲に対し「諸君にはベートーヴェンの足音を聞きながら交響曲を作る苦労が分からんのである」という類のことを言った。先人が偉大であればあるほど、その後に続く者には辛い。「創造することは受け継ぐことよりも難しい」とか言われるが、半分くらいはウソである。実際は創造することも、受け継ぐことも同様に難しい。いや、それがただの「摸倣」に終わることなく、受け継ぎつつ「創造」せねばならないという点で、後続の者のほうが、あるいは難しいかもしれない。

 苦心惨憺の挙げ句、20年費やし「ベートーヴェンの第10交響曲」とさえ呼び賞賛された第1交響曲を完成させたブラームス、肩の荷がおりたのか、つぎの第2交響曲はじつに4ヶ月足らずで作成されている。かれは1877年6月にウェルター湖畔のペルチャッハというところでその製作に着手し、9月にバーデン・バーデンでもって完成された。ただ、早書きではあれど、後述曲内容紹介で詳しく述べるように、一点ゆるがせにしない、ブラームスらしい構造の作り込みがみられる。
 さて、ブラームスが当時滞在したペルチャッハというのは、オーストリアにある実に魅力的な村であるらしい。ブラームスはここで多くの友人と巡り会い、そしてその居心地を心行くまで楽しんだという。作曲者の境遇が必ずしもその製作した楽曲に表現されるわけではないのだが、しかしこの第2交響曲を聴くと、如何にも幸せな、温もりのある、心静かな生活を送っていたことが知れる。実際、ブラームスの友人であった医師のビルロードという人はこの曲を聴いて「ペルチャッハというところはどんなにか美しいところなのだろう!」と嘆息したといわれる。
 ベートーヴェンの、同様に牧歌的な曲想をもつ第6交響曲”田園”になぞらえて「これはブラームスの”田園”だ」ということが言われる。この、やわらかい夕映えのような曲にぴったりの表現だろう。

■内容

 第1楽章 アレグレット・ノン・トロッポ。ソナタ形式で構成。チェロとバスの前置きみたいなのが少しだけあって、第1主題が木管とホルンに出る。その「前置きのようなもの」が、実に全4楽章を貫徹して用いられている「基本主題・D-Cis-D(レ−ド#−レ)」である。この第1主題は秋の夕暮れ、静かに背中を押してくる夕日の暖かさを含んでいる。木管に最初に登場した主題は次第に弦にとって代わられ、ティンパニがピアニシモ指定で鳴り、さらに金管が柔らかく「一瞬の日陰」を示唆し、「基本主題」が一瞬フルートに顔を覗かせ、それが繰り返された後に、弦に仄やかな、第1主題が分散したような主題が出る(時間目安は1:15-.以下時間表示はチェリビダッケ/シュトゥットガルト放送響盤 [Deutsche Grammophon] )。暖かいが、それが弦によって奏されることで些かの清冽さを帯びる。それはフルートを主とした木管と掛け合いながら奏され、58小節終わりからフォルテで再び「基本主題」が現れた後は再び静かな木管と弦の掛け合い(1:48-)になる。そしてビオラとチェロが深く呼吸をするかのような第2主題を提示する(2:11-)。それは少し膨らむような曲想を見せながら、木管に再び現れる(2:43-)。美しいそれにヴァイオリンが連なり、ピッツイカートが俄かの心の高まりを暗示したところで、スタッカートを多用した突っ張ったような動機が登場する(3:07-)。今までは柔らかく、非常に分かりやすい形で来ていたので知らない間は少しびっくりする。このスタッカート動機は緊張を伴い、少々発展しながら、134小節のフォルティシモで頂点を築く(3:35)。その後、スタッカート動機は第1主題に似た動機をエスプレッシーヴォで奏すヴァイオリンを支える形で、木管と低弦で奏される。それは展開され、じき分散して下りてきた後、ビオラに第2主題が再び顔を出す(4:07-)。そこで音楽は再び、もとの柔らかさを取り戻す。クラリネットは湖面に反射して輝く夕陽の如しである。実に美しい。この辺はまさに田園風景だといえる。のち、展開部へ入り、そこではホルンが第1主題を摸倣する(4:50-)。それはオーボエ、またフルートへ受け継がれ、弦が入る頃(5:21-)になると次第に緊張を高めていく。この辺はバッハのオルガン曲をより複雑化したような立体性を伴う。楽想はなおも緊張度を高めながら、トロンボーンに基本動機が出(5:49-)、それに各楽器が音をたたみかける。金管に一瞬第1主題が出る(6:21-)がすぐにかき消される。再びそれが繰り返され、落ちついたかなと思わせるが、先に金管をかき消した木管による音型が今度はヴァイオリンに出、小さい緊張を再び形作った(7:29-)後に木管が静かに下降和音を奏し(7:39-)、今度は平穏に第1主題が再登場する。ここで曲は再示部に入り、オーボエに第1主題が出る(7:45-)。逍遥するように変化する第1主題は、じきに静かなティンパニのトレモロを呼び(8:48-)、金管が少しばかりのきな臭さを伴って音楽を引き締めた(8:58-)後、ビオラとチェロに第2主題が再び登場する。しばらく第2主題の物静かさが、楽想を占める。しかしそれは前出のスタッカート動機によって引き取られ(10:01-)前に出たときと同じような展開を見せながら続く。のちフルートが第2主題を奏しはじめる(11:00-)。じきにそれはビオラによって摸倣され、オーボエが分散和音を降下するころ(11:30-)は既に楽章結尾部に入っている。先ず木管に第1主題を出し、展開部の断片をホルンが独奏的に奏する。それがリタルダンドで吹き鳴らされる辺り(12:26-)は既に日も落ち、暮れかかっている情景である。そして、一番最初に前置きのような形で出た動機を、他の弦とホルンを伴いながらチェロがゆったりと、耽美的に奏す。静かである、が、この楽想のたゆたいは、何か聞き手に決断を促すところがある。じき速度は元に戻り、呈示部で「金管をかき消した木管による音型」とした、少しハネるような動機が木管特にオーボエに登場する(13:44-)。じきにホルンが第1主題を回顧するかのごとく弱く出し、沈むかのように各楽器がピッツイカートあるいはスタッカートで追従し、やがて和音がやわらかな膨らみをもって奏され、楽章を終わる。

 第2楽章アダージォ・ノン・トロッポ。ニ長調ではあるが、孤独感が目一杯詰まっている楽章。第1主題はチェロの下降旋律によって始まる。それはじきにヴァイオリンとフルートによって受け継がれる(1:19-)。その孤独にホルンが愁いの味付けをする(1:51-)。木管がそれを継ぐ。ホルンは寂しがりつつも草原に座ってにっこり微笑むヨハネスであり、木管はそれを見てヨハネスがにっこり微笑んだ稚い子供たちの追っ駆け合いである。それは弦による次の旋律にとって代わられ(2:43-)、じきに木管によって第2主題が現れる(3:15-)。ヴァイオリンに摸倣され、また再び木管に受け継がれる旋律はトゥッティによって小さい山を作る(4:08-)。それは次第に弱まり、弦に新しい旋律が登場する(4:24-)。それは次第に動きを強めていき、熱っぽい、しかし凝縮感を伴ったものへと変容していく。じきそれは緩まり、第1主題が弦に登場する(6:19-)。曲想は転回を重ねるが、第2主題は登場しない。そんなこんなしているうちに第1主題の断片が木管に出る(10:14-)。ヴァイオリンがそれに続き、ティンパニが些か不気味に鳴る中、楽章を静かに終わる。

 第3楽章アレグレット・グラツィオーソ。メヌエット方式(ABACA)の楽章。オーボエが純朴に主題を出す。Aである。付いてくるチェロのピッツイカートが愉しさを倍化させる。しかし突然(1:10-)、速度が倍になり(プレスト・マ・ノン・アッサイ)、先にオーボエが出した主題を変化したような非常に動きのある主題を、ヴァイオリンが出す。Bである。それは木管特にフルートと愉しい掛け合いを演じ(1:15-)、フォルテとなると(1:22-)非常に速いスキップのようになる。それは次第に静かになり、再びフルートに出、せわしない中にオーボエが次の主題・テンポを暗示する(1:56-)。やがてオーボエに最初の旋律が同じテンポとともに出る。つまりAに戻ってゆくのだが、最初に出たAとは少々形が違っている。やがて再びせわしなくなり(2:47-)、Cに入ったことを感じさせるが、これはBに非常に近い旋律である。しばらく音楽は跳ね回ったのち、三たびAに戻り(3:32-)、静かに終結する。

 第4楽章アレグロ・コン・スピリート。快活な終曲。最初はピアノ指定で、弦がユニゾンでもって第1主題(やはり基本単位はD-Cis-Dで構成されている)を提示する。それは木管に受け継がれ、木管―弦―低弦と出た後に一瞬沈黙があり、トゥッティが大爆発する。旋律は主にユニゾンのヴァイオリンによって保持され、力を増しつつ前進する。静かになり(1:14-)、クラリネットによって先導されたゆるやかな旋律が登場する。それは弦のピッツイカートに装飾されながら、音楽をビオラとヴァイオリンが奏する第2主題(1:34-)へと受け渡す。それを木管が受け、摸倣する。展開部は、第1主題と同じかと見紛うような旋律から始まる(3:14)。しかしじきそうではなくなり(3:19-)、弦と木管が掛け合いを演じたのち、主題が転回されて、少し姿を見せる(3:52)。再び転回される。木管に第2主題の変化した旋律が出(4:24-)、曲想はゆるやかになり、再示部へと移る(5:46-)。ただ同じ旋律ではない。弦が三連音で下降して、第2主題が前回よりは力強く登場する(6:31-)。結尾部はトロンボーンの唸りから始まる(8:05-)。同じくそれを木管が受け、弦が転回しつつ、奏す。やがて第1主題の断片が力強く奏され(8:49-)、それらは上昇しながら、金管の力強い咆哮を伴いつつクライマックスを築いていく。金管に第2主題が出る頃にはもう曲の頂点である(9:20-)。合奏はますます力を増し、やがて和音が幾度も叩きつけられ、華やかなこの楽章を終結する。

■蛇足

 ブラームスの余裕と遊び心がよく見える、楽しくて心安らかな曲である。第4楽章冒頭などは、かくれんぼうをしているようにさえ聞こえる。

(up: 2009.1.4 旧WEBサイトに公表していた旧稿を改訂)
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