フィルハーモニア管が自主運営組織ニューフィルハーモニア管になって真っ先にクレンペラーが録音したのがブル6。クレンペラーの常で、微細的に聞けば結構バラバラなのだが、全体を通して聴くと壮麗無比の印象が残る。音質よく音色鮮やかで、個人的に第6を聴くために購入したチクルス。
 ▽ Anton Bruckner
Symphony No.6 in A-Dur WAB106
交響曲第6番 イ長調 作品106


■作曲 1879年8月〜1881年9月
■初演 (第2、第3楽章のみ)1883.2.11 ウィーン
      ヤーン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による
      (全曲版 [但しマーラーによるカットあり] )1899.2.26 ウィーン
      マーラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による
      (カットなし全曲版)1901.3.14
      ポーリッヒ指揮 シュトゥットガルト宮廷楽団による
《楽器編成》
Fr. 2 Ob. 2 Cl. 2 Fg. 2
Hr. 4 Tromp. 3 Trb. 3 Tuba Tim.
1st Violin 2nd Violin Viola Cello C.bass


■概要
 芸術家の世上における印象が、彼の代表作と目される作品によって作られてゆくとするならば、集まってくるファンの多くはやはり彼の代表作に惹かれた人々であり、そうなれば必然的に、その印象から逸脱した作品は敬遠されるか、あるいは》彼らしからぬ《作品として黙殺されるだろう。
 ブルックナーの第6交響曲はそのような立場にある。この、優美でありつつ柔らかな響きをもつ、また彼の作品にしばしば見られるような「恐るべき長大さ」も抑制されている第6交響曲が、ブルックナーの複数の交響曲が多くの追従者を生み続けている今に至るもポピュラリティを勝ち得ていない。如何にも不思議である。》ブルックナーらしからぬ《作品と評価されることも多いが、同じような響きをもつ第4交響曲は、独墺系交響曲全体のなかでもでも比較的人気の部類に属することを考えても、第6交響曲の扱いは正当とはいえまい。

 「ワーグナー交響曲」として知られる交響曲第3番が初演されたのは1877年12月だが、この当時ブルックナーは既に第4交響曲および第5交響曲を完成させていた。速筆故にこのようなことになっているのでは全くない。完成と初演が大いにずれるのは、たんになかなか初演されなかったというだけの話で、当時の聴衆に余り大きな人気のなかった(そして不当にもワーグナー派vs反ワーグナー(ブラームス)派の派閥闘争に巻き込まれていた)彼にとって、これは珍しいことではなかった。第4は1874年の完成ながら初演は1881年、第5は1875年に完成したにもかかわらず1894年に初演された。そして1881年に完成した第6交響曲は、全曲版(しかしマーラーによるカットあり)が初演されたのはじつに1899年のことであった。

 1868年、それまでリンツにあったブルックナーが、友人ヘルベックの勧めで音楽院の教員としてウィーンに移住する。上オーストリア生まれの天性の田舎者ブルックナーはここ国際都市ウィーンで多くの辛酸をなめることになる。1880年、彼はウィーン大学の講師として採用された。社会的地位は高まり、安定的な収入の途も得られはしたが、週に30時間もの講義をこなさねばならず、彼はその間を縫って作曲活動を行った。

 この第6交響曲は、第4(変ホ長調)、第5(変ロ長調)に続く長調の交響曲であり、その性格もまた第4交響曲に類似している。但し、特に第1楽章において定型的な主題が発展しきれずに進行してゆき、結果として時に冗長の感を与える第4交響曲に比して、第6はより動的で、より面白い。


■内容

 第1楽章 マエストーソ。イ長調。2分の2拍子。冒頭、高音で奏されるヴァイオリン主題のリズムは、2+3連符のいわゆる「ブルックナー・リズム」の付点変形型である。直後低弦にて奏されるのが第1主題で、これもまた「ブルックナー・リズム」の前半が延長されたような形となっている。この特徴ある主題は、交響曲第4番の第1楽章冒頭主題をベースに、第4楽章Langsamerにて最強奏される提示部主部(43小節〜)の圭角を加えたようなテイストであり、成立年次が極めて近接しているだけに非常に似ている。続いてやわらかな第2主題が出るが、これは同じく第4番の第4楽章・第2主題に似ている。経過句を経たのち、大きく上下降する第3主題が弦によって現れる。一瞬パウゼが入った直後にホルンによって主題を出させるところなどは、如何にもブルックナーである。金管による冒頭第1主題の再呈示が行われ、主題の展開がなされてゆく。第2主題がテンポを倍にして静かに現れ、やがて結尾部に至る。基調リズムはやはり3連符の上に乗る「ブルックナー・リズム」第1主題で、金管群と弦の掛け合いによって大いに盛り上がったのちにその勢いのまま、終曲和音連打などを得ず、余韻を残さずして楽章を閉じる。

 第2楽章 アダージョ。ひじょうに厳かに。ヘ長調。4分の4拍子。ソナタ形式。ヴァイオリンがヴェルヴェットの絨毯のような第1主題を呈示する。続いて、その上に乗るようにして美しくも寂しげな主題がオーボエで奏される。やがて登場する第2主題はホ長調で、調性のせいもあって非常に明るい。これはヴァイオリンとチェロに対位法的に登場する。木管同士の掛け合いが行われたのち、葬送行進曲ふうの第3主題があらわれる。不在感が募る木管の下降音型ののち、主題の確認が行われる。弦の下支えの上を木管が吹き抜けてゆくブルックナー得意の楽器法は、ここでも非常な効果をあげていて、しっかりした鳴りの厚みと自由な呼吸を感じさせる。

 第3楽章 スケルツォ。イ短調。4分の3拍子。低弦の刻みの上に強奏する金管が乗り、のちヴァイオリンと木管が相対立する旋律を奏する。スケルツォではあるが、どちらかというと初期交響曲の終章に見られる勢いを感じさせる。雰囲気は交響曲第5番のスケルツォにもやや類似している。主題を2度繰り返したのち、トリオ(中間部)が速度を落としてハ長調、4分の2拍子にて始まる。ここで支配しているのは付点リズムで、弦のピツィカートによって始まる。金管とフルートによる幻想的な主題ののち、寝惚けた軍隊行進曲のような曲想となり、速度が戻って冒頭主題に回帰する。

 第4楽章 フィナーレ。運動して、速すぎずに。イ短調。2分の2拍子。ソナタ形式。序奏がヴァイオリンに現れる。ニ短調にて繰り返されたのちに、ホルンがイ長調で、オクターヴによって支配されている第1主題を出す。非常に喜ばしい主題である。第2主題はハ長調によるやわらかなもので、これが交響曲第4番第4楽章・第2主題にやはりよく似ている。回想の如き繰り返しを経て力を得たのち、第3主題があらわれる。まず金管を中心にした力強いものとして登場したのち、オーボエによるスタッカート付きの軽やかな模倣が行われる。のち展開部となり、各主題を次々に登場させつつ、楽器法においてブルックナーが極めて得意としている、金管と弦(特にピツィカート)の対比が行われる。第1主題が次第に力を得て、最終的にはイ長調とした第1主題を中心として雄大に、また幸せに楽曲を終える。

■蛇足

 第7番の優美さ、第8番の雄大さをあわせて2.5くらいで割ったような曲。あるいは第4番から単調さを除いて少し巨大にしたような曲といえるだろう。第4は退屈、第5は強烈にすぎ、第7は余りに瞑想的、第8は大袈裟、と考える人にはぴったりだと思う。ブルックナーらしさは随所に現れるので、ブルックナーの雰囲気に身を浸しつつのびのびと休らうにはうってつけである。
 おそらくブルックナーの交響曲CDの売れ筋は第4番と第7番が二大巨頭だと思われるが、ビギナー向けとして第6番こそpower pushされるべきだとわたしは考える。

(up: 2009.3.22)
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