spatium artis
Apollon et les Muses (Parnasse)
  アポロンと女神たち(パルナッスス)
1630s
Oil on canvas
 125 x 197 cm
Museo del Prado, Madrid

【部分図。クリックにて拡大】

■梗概

 この「アポロンと女神たち」は、プッサン壮年期に差し掛かった頃に描かれた、いわば初期の代表的作品である。「パルナッスス」とは、諸芸術を司るミューズが集まる山の名前。中央やや右寄りに、月桂冠を飾ったアポロンが配置され、それを取り囲むように、仮面を持った演劇のミューズ(ムーサ)、笛を持つ音楽のミューズ、また書物をもつ学者などが配置され、なかには「人間代表」としてホメロスの姿も見られる(後述)。
 登場人物は扇形に配置されているが、これはヴァチカンにあるラファエロのフレスコ画「パルナッスス」へのオマージュである。その鮮やかな色遣いはティツィアーノを思わせる。


中央に配されたアポロン。頭には月桂樹の葉が冠されている。
月桂樹は古代ギリシアにおいてアポロンの霊木とされている。冠として競技の優勝者に被せ、賞賛の意を表するのは、このアポロンが太陽・光明の神で、さらにギリシア文明と知性、音楽を代表する大神であるからである。芸術の女神を様々従えてパルナッソス山に住んでいるとされている。
このアポロンは極めて若々しく、優美ななかにもその瞳に知性の輝きがあるように描かれている。
なおプーサンは1630年頃、「詩人に霊感を与えるアポロン」というテーマで絵を描いているが、これはこの「パルナッスス」におけるアポロンよりも若干年をとったものである。
詩文を司るミューズが、ホメロスに月桂冠を冠している。
そしてそのホメロスはアポロンに詩作を献呈している。
ホメロスはいうまでもなく『オデュッセイア』などで夙に著名な詩聖。

この作品に先立つ、前述ラファエロ「パルナッスス」においてもホメロスは登場している。但しラファエロの同作に登場するホメロスは既に功成り名遂げた老人であり、この絵に見られる、まだ壮年のホメロスが月桂樹を既に冠されている姿、いずれも若々しい神々の姿をみるにつけ、プーサンの「若さへの賞賛」のようなものが見られるように思う。
この裸婦は「カスタリアの泉」の擬人化された姿。
カスタリアの泉とはパルナッスス山の山麓に湧く泉で、この泉を囲んでミューズ神が伎芸に遊び、また天馬ペガススが水を呑むところとしても知られている。

詩人アルカイオスは次のように歌っている。「(アポロンは)一年ののち、また白鳥の高空をわたる羽ばたきと共にカスタリアの泉に帰りたもう。野鶯は歌い、燕はさえずり、蝉もまた御神の御幸を人々に告げ知らせる」と。
寄り集ったミューズ(ムーサ)の神々。
芸術の神々らしく、それぞれ各技芸の得物を手にしている。ラッパは音楽、仮面は劇のアトリビュートである。
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