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頼政に使用する面は特別な、その名も「頼政面」。彫りの深い、味わいのある、しかし口元あたりにこの世への妄執を確かに感じる面である。


岩波文庫版『平家物語』全四冊セット。
この頼政が活躍する戦は全四冊のなかでは第2巻。第2巻には、平家物語の巻第四、第五、第六が収められている。


【注釈1】
勧学院とは藤原家の教育機関、また『蒙求』とは中国古代の言行録であり、教科書として使われていたテキスト。今風にいえば、さしずめ「文京の雀はマンキューと囀る」といったところか。

■能楽名曲紹介
頼政
【修羅物】

◆作者
 世阿弥
◆季節
 夏(5月)
◆場所
 山城・宇治平等院

◆登場人物
 ワキ   旅僧
 シテ   老人
 アイ   所の者
 後シテ  忠度

◆予備知識

 頼政とは源三位入道頼政 (1104-1180) のこと。たんに「源三位」とも呼ばれます。清和源氏の流れをくみながら、平治の乱では清盛側につき、その清盛の推挙で従三位を与えられております。のち出家をしたので「源三位入道」とも呼称されます。
 『平家物語』では巻第四「源氏揃」に、以仁王に対し謀反を勧める様子が、また同巻「競」に乱の様子が、同巻「宮御最期」にその自害の様子が、それぞれ記されています。辞世の歌である、
埋れ木の花咲くこともなかりしに、身のなる果てはあはれなりけり
というのは『平家』本文にも出ておりますが、この曲で後シテも同じ歌を歌います。「この身は埋れ木のように、満開の花をつけることもなかったが、このように自害せざるを得ないのは残念なことだ」という意味です。もっとも、従三位まで得た人が「埋れ木」というのもどうなのかなあと思わないではないのではありますけれども。

◆あらすじ

 諸国を遍歴する旅僧(ワキ)が山城国・宇治の里に到着します。見どころが多い名所なので、この里の人がこの辺りに居ないだろうか(居れば名所などを聞いてみるのだが)と述べます。老人が出てきて「賤しき宇治の里人なれば」名所旧跡などもいっこうにわかりません、なんとお答えすればよいか、と答えます。旅僧は構わず、ことわざにも《勧学院の雀は蒙求を囀る》【注釈1】といいます、「喜撰法師が住みける庵はいづくの程にて候ふぞ」と問います。老人は、これはまた難しいことをお尋ねなさる、と言いながら、「わが庵は都の巽しかぞ住む、世を宇治山と人は言ふなり」と喜撰法師の歌を引きながら、本人が「人は言ふ」などと他人事みたいなことをいうことなのに、本当の他人のわたしなどが知るよしもありません、と述べます。旅僧はやはり構わず、あれに見えるは槇の島でしょうか、と問います。老人、これは確かに槇の島とも称し、また宇治の川島ともいうものです、と答えます。旅僧、こちらに見える小島の岬はなんですか。老人、有名な橘の小島が崎。旅僧、向こうに見えているのは恵心僧都の恵心院ですね、と重ねて問うた時、「月こそ出ずれ朝日山」、月が出ていることに両人気付きます。地謡が月の輝きと山城の風景が月明かりにおぼろに霞んでいることを讃めます。
 老人は、この辺りに平等院という寺がありますが、訪ねましたか、と旅僧に問います。まだ不案内なので訪ねずにいます、という旅僧に対し、老人は「これこそ平等院にて候へ」と答え、この近くに宮戦(以仁王を奉じた源頼政の戦)があったこと、頼政は戦に負け、ここで扇を敷き、自害して果てたことを伝え、さらに宮戦が起こったのは今月今宵であることを伝えます。地謡で、「われ頼政が幽霊(わたしは頼政の幽霊である)」と十分に名乗りもせずに消えてしまった、と謡われます。

 〈中入〉

 頼政の幽霊が出たので、跡を弔おうと述べる旅僧の前に、太刀装束の頼政(後シテ)が現れ、経を読んでくれるように頼みます。あなたは「源三位の、その幽霊にましますか」と問う僧に、頼政は「名乗らぬさきに、頼政と御覧ずるこそ恥ずかしけれ(名乗らぬうちに、頼政とお分かりになったのは恥ずかしいことだ)」、ぜひ御経を読んでください、と重ねて頼みます。僧は、安心なさいませ、法華経の功徳で成仏することは疑いなし、と述べます。頼政は改めて自分が源三位頼政であることを述べ、「執心の波に浮き沈む(この世に対して執着があって浮かばれないでいる)」と吐露します。続いて頼政は宇治の合戦の様子を語り、地謡に合わせて太刀を抜き、力強く舞い踊ってその当時自分が如何に奮戦したかを示します。そして「埋れ木の花咲くこともなかりしに、身のなる果てはあはれなりけり」という辞世の歌を残し、僧に回向を頼んで、扇の芝の草陰に帰るのだ、と述べ、自らの扇を投げて消え去ります。

◆上演時間
1時間45分

◆みどころ
 修羅物でありながら、修羅の世界の苦しみを述べることがない曲です。ただただ、頼政の現世への執心が述べられます。
 頼政の面は頼政面を使用します。老武者の最期の奮戦ぶりが心に残る、じつに力強い曲です。

(2014.12.23 updated.)
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