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spatium artis ( 2015.2.7 updated )
MelencoliaT
  メランコリアT
1514
Engraving,
239 x 189 mm
Kupferstichkabinett,
Staatliche Kunsthalle,
Karlsruhe

【クリックにて拡大】

■梗概

 ルネサンス期の神秘哲学に触れるものの前に必ず現れる門番のような版画、それがこの、デューラーの《メランコリアT》である。

 デューラーの完成した所謂「三大銅版画」のひとつで、《騎士と死と悪魔》に続く2つ目のこの作品は、今に至るもその意味が解明されたとは言いがたい。神秘的で、かつ不可解であるが、「不可解」にて放擲するにはあまりに魅力的な作品、それがこの《メランコリアT》だといえよう。
 今述べた三大銅版画の1つ目である《騎士と死と悪魔》は1513年の作品、そしてこれは1514年の作品である。そしてこの年には、3つ目の《書斎の聖ヒエロニムス》が完成されている。

 1514年といえば、フィレンツェでは、碩学マルシリオ・フィチーノが「プラトン・アカデミー」を1492年に創立、ネオ・プラトニズムを基とした神秘哲学がヨーロッパで何度目かの隆盛を迎えていた。そしてこの名作版画は、当代のネオ・プラトニズムからの影響を受けていると思われる。
 そもそも、中世の神秘哲学では、人間には四つの基本体液があり、そのバランスによって気質が決定されると考えられていた。結果的に、どれかの体液が他に優越することによって、人間は多血質、粘液質、胆汁質、憂鬱質、に分類される。そもそもは古代ギリシアで発生したこの四気質説だが、この気質のなかで最も劣ると思われていた憂鬱質に、最も高い価値を与えたのが他でもない当時の神秘哲学である。そもそも憂鬱に陥るというのは一種の「才能 genius」がある故であり、憂鬱 - 怜悧な知性を相通じて憂鬱質の人間は神的な霊感を得る、と考えられた。
 なお、神秘哲学研究の泰斗であるフランセス・イェイツ女史は『The Occult Philosophy in the Elizabethan Age』にて、当時のデューラーは神秘哲学といってもマルシリオ・フィチーノではなく、アグリッパ・フォン・ネッテスハイムの理論(『De Occulta Philosophia』)に影響されていたと述べている(『The Occult Philosophy in the Elizabethan Age』, Routledge Classic 版、p.62-)。


足元に散らばる製図用具。「幾何学(Geometria)」を示している。
幾何学の擬人像はこの時代、同時に ars つまり広範な技芸に携わることをも意味し、絵画世界をも含んだ。かつ幾何学そのものには理性的であるという意味も含まれているため、デューラーが自分の内的な世界を擬人化しようとすれば必然的に幾何学が選ばれることだろう。

有翼の、おそらく「幾何学」の擬人像。
但し彼女は見るからに憂鬱であり、巨大な翼は使われる兆しもない。黒い顔は鋭い視線をのぞいては活性の兆しもない。これこそ憂鬱質 melencolia の表現である。
本文にて記載したように、メランコリーにはこの時代、新たな、ポジティヴな意味を付与されている。沈思と憂鬱と深い思索に見られる、自由な想像力と怜悧な知性。
そしてここにある巨大な翼は他でもなく想像力が飛躍するさいに使われるものではあるまいか。

飢えた犬。
イェイツ女史によると、この犬は身体性の減退とそれに伴う感覚の鋭敏化を示していると解釈されている。感覚性は他のひとつを除けば縮退し、残りつつ鋭敏となっている感覚とは内的観照のみで、まさにその内的なビジョニングをこの犬の上に居るプットがエングレービングの道具を用いて記している、そのような解釈である。
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