spatium artis ( 2009.5.28 updated )
Madonna dal collo lungo
  頸の長い聖母
1534-40
Oil on panel,
216 x 132 cm
Galleria degli Uffizi,
Florence

【部分図。クリックにて拡大】

■梗概

 パルミジャニーノ晩年の傑作。晩年といえど、彼は37歳にて世を去るため、実質的には脂がのりきった壮年時代の作品である。彼はこの頃、数年間滞在したローマから再び生地パルマに居を移した。

 この絵には規範となったらしい彼自身の素描が複数遺されてあり、その最初のものは、聖母・聖ヨハネ・イエスを三角形に配置し、その右側に聖母を礼拝しにやってきた衆を描くという構成であった。それを見ると、彼が素描の構成を発展変化させ、ひとつの昇華としてこの作品を描いたことが知れる。
 全体的には実に据わりの良い、つまりはS字型に構成された聖母を中心として優美この上ない表現が行われている安定的な絵だが、しばらく眺め、あるいは細かいところに目を移すならば、これはすぐれて幻想的で不可思議な作品である。

真ん中に配された聖母は、ゆるやかなS字型で構成されている。「蛇の如き長身」「S字型の構成」はマニエリストが依拠したひとつの規範である。

S字がゆるやかであり、なおかつその衣装が優美で包容的であるため、「蛇のように幾度も回転し」そうでありながらも、同時に筋の通った安定性を感じさせる。それはまるで一箇所にて腰を据えつつゆらめく炎のようである。
聖母の腕に抱かれるイエス。

ねじくれた不安定な構図で、なおかつ膚の色に生気がない。これは死んでいるのではないのか。つまりは、キリストの受難が予め表現されているものなのではないだろうか。
しかしそうだとすると、愉悦をもって眺めているかのような聖母のまなざしが不可解である。

イエスの右足向こう脛のあたりに、何者やらん、何かを訴えているかのような人の顔が見られる。
聖母子のもとへ集まり、母子を眺めている子供たち。
これは天使の表現であるといわれる。

いっぽうで、左端に見られる、壺を運んできたらしい少年の、聖母を仰ぎ見るまなざしは一種礼拝のそれであり、「可死的人間が偶像を仰ぐ」かのようなまなざしであり、子供たちは、聖と俗の境界、天使と人間の境界、大人と幼児の境界に居る、マージナルな存在であるともいえる。
ここに描かれている子供たちが可死存在である、という意味においては、この絵は「礼拝像」のひとつというべきであり、ドヴォルシャック博士によるとこれは「精神的優美の理想を表現したもの」である。
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