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鵺。Wikipedia から勝手に借りてきた。



鵺の後シテの装束。国立能楽堂ウェブサイトから勝手に借りてきた。とにかく派手



岩波文庫版『平家物語』全4巻セット。やはり能を見るためには平家の知識が欠かせない。
■能楽名曲紹介
【切能物】

◆作者
 世阿弥
◆季節
 夏(4月)
◆場所
 摂津・芦屋

◆登場人物
 ワキ   旅僧
 シテ   舟人
 アイ   里の男
 後シテ  鵺の霊

◆予備知識

 これはなかなか珍しい曲で、後シテが妖怪変化の「鵺」という動物?であるのみならず、その鵺が自分を見事射殺した武士を褒め称えるという構成になっております。
 射殺した武士、とは、名曲紹介《頼政》でも紹介しました源三位入道頼政であり、その故事は『平家物語』巻第四、「空鳥」(偏が空、旁が鳥、という漢字一文字で「ぬえ」ですが、字が出てこないのでこれ以降一般的な「鵺」で代用)に出ております。
 「近衛院御在位の時」(1152年ころ)、天皇が夜中、怯え苦しむことが度々あり、その際には必ず御院上空に真っ黒な雲が現れておりました。高位の僧をたびたび集め加持祈祷を行うがいっこう効果がなく、苦しむ様子変わりなかったので、宮の人々はかつて源義家が化物を退治した来歴に倣い、豪の者を呼び退治をさせようと考えます。そこで白羽の矢が立ったのが頼政でありました。
 頼政は見事、弓矢にて物怪を射落としますが、落ちたものをみてみると
かしらは猿、むくろは狸、尾はくちなは(蛇)、手足は虎、鳴く声、鵺にぞ似たりける。おそろしなンどもおろかなり
というとんでもない化物でありました。天皇の病気はじき快癒し、その勲功に対し頼政は御剣を賜ることになりますが、授与の仲立をした左大臣藤原頼長が御剣を頼政に渡しつつ、紫宸殿に郭公が鳴くを聞き、
ほととぎす 名をも雲井にあぐるかな
 (ほととぎすが空高く鳴き声をあげているが、あなたもその名前を宮中にとどろかせましたね;「雲井」に「宮中」がかかっており、「名をあぐる」にほととぎすの鳴き声と名声が上がることをかけている)
と詠みます。頼政は御剣を押しいただきつつ、
弓張月のいるにまかせて
 (弓を射るにまかせて、偶然仕留めただけですよ;「弓」>「射る」、「月」>入る、がかかっている)
という見事な下の句をつけます。それを聞いた宮中の人々は、頼政は弓矢をとって比類なきのみならず、歌道もまたひとかたではない、と感嘆しました。そういうお話が『平家物語』に出ています。なお、射殺された鵺は「うつほ舟」に乗せて流されたとのことですが、この「うつほ舟」も曲中に登場します。「うつほ舟」とは、木の中身をくりぬいて空洞にした舟のことです。


◆あらすじ

 諸国遍歴の旅僧(ワキ)は、芦屋で宿を借りることができなかったので、洲崎の御堂に泊まることにします。里の男(アイ)が現れ、そこには化物が出ると伝えます。そこへ、舟人(前シテ)が「浮き沈む 涙の波のうつほ舟 こがれて堪へぬいにしへを忍びはつべき隙ぞなき」と現れます。旅僧は、夜の波に舟の形は見えるけれども、ただ埋れ木のようで乗る人影もさだかではない、不可思議である、と語ります。舟人は、自分が鵺の亡霊であることを伝え、これからその時の有り様を委しく語るので、跡を弔ってほしい、と述べます。懇ろに弔うことを請け合った僧を前に、舟人は地謡とともに、近衛院の御時に天皇が化物に悩まされたこと、宮中で豪の者として頼政が選ばれたこと、頼政が鵺を退治した様子、を語ります。舟人は夜の波にまぎれて姿を消します。

 〈中入〉

 僧が読経していると、「面は猿、手は虎、聞きしにかはらぬ変化の姿、あら恐ろしの有り様」にて鵺の霊(後シテ)が現れます。ここでは頼政の故事について、鵺の視点から語られます。「われ悪心外道の変化となって、仏法主法の障りとならんと、王城近く遍満して」御殿を飛び回り、玉体(天皇の身体)を苦しめたが頼政の矢先に斃れたことを述べます。鵺は「頼政が矢先より、君の天罰を当りけるよと今こそ思ひ知られたれ」と懺悔の体を示します。また続けて頼政が鵺を退治した後、天皇から剣を賜ったこと、先に予備知識にてとりあげた「ほととぎす」の歌の返歌を見事に作ったことなどを語り、救いを求めつつ、「遥かに照らせ、山の端の、遥かに照らせ、山の端の月と共に海月も入りにけり、海月とともに入りにけり」と再び海の彼方へ消えていきます。

◆上演時間
1時間10分

◆みどころ
 切能つまり化物モノですので、まず外見的には、後シテの派手派手しさが見どころです。後シテの装束は面が猿飛出、髪は赤頭、金緞鉢巻、さらに頼政の矢先に当たったことを表現する型、天皇から御剣を賜った様を示す型など、派手な型も多い曲です。変化がわりにあって飽きさせません。
 更に内容に関していえば、頼政の故事来歴が前半と後半で重なって語られるところがありますが、前半は平家物語をトレースしたような第三者的視点からの語りであるに比して、後半では鵺自身が一人称的に語り、自分の振舞いを懺悔するような体もあり、死後うつほ舟に乗せられて自分は朽ちながら月日も見えぬ、という寂しさが募る描写などもあります。化物が非を認め頼政を賞賛するという倒錯した構成だからこそ、より鵺の孤独と悲しみが尾を引く、という曲になっております。

(2014.12.25 updated.)
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