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やはりリヒャルト・シュトラウスの作品は作曲者自身と交流のあったベームの独擅場。この盤はオケもシュターツカペレ・ドレスデンとあって所謂「リヒャルトの馴染み同士」と邂逅である。エレクトラのインゲ・ボルクも快調。問題があるとすると廃盤であるということだけ。


【DVD】
やはりベームの指揮。ただしオーケストラはウィーン国立歌劇場管弦楽団で、ホルンが吹き上がるところなどは実にすばらしい。エレクトラ役はレオニー・リザネクが端正で強烈な歌をうたうが、ひとつ難点をいえばリザネクが毎日ハンバーグを食べているかのように太っていて、偏執的雰囲気は出ているが迫害されている雰囲気は全く出ていない。ただ他にエレクトラとしての評価の高いビルギット・ニルソンとかも太ってるからなあ。如何にも苦しそうなエレクトラ歌いは出ないものか。


ショルティ指揮、ウィーン国立歌劇場管弦楽団の67年演奏、そしてレコーディング・プロデューサーは DECCA の名プロデューサーであるジョン・カルショウ。正しくビルギット・ニルソンの強靭なエレクトラを聴くための盤。回転のいい、強く速い直球のような声である。全体的にはショルティの指揮というよりはカルショウの指揮とでもいうべきであって、如何にも当時のカルショウ的な濃厚で強い味付けの音響、そして録音である。単独盤は品切れだが、先年出たショルティのR・シュトラウスオペラ集に含まれている。以下を参照。

 ▽ Richard Strauss
Elektra
歌劇《エレクトラ》



■作曲 1906-08年
■初演 1909.1.25 ドレスデン ドレスデン宮廷歌劇場
      エルンスト・フォン・シューク指揮による
■台本 ホフマンスタールによる
■言語 ドイツ語
■時代 ギリシア神話時代、トロイ戦争後
■場所 ギリシア・ミケーネ

《楽器編成》
Picc., Fr. 3 Ob. 3 Ob. 3, HkHl Cl. 5, BsHl2 Fg. 3, CtFg.
Hr. 4, WgTb.4 Tromp. 6 Tromb. 4 Tuba Tim.2
1st Viorin 8 2nd Viorin 8 3rd Viorin 8 1st Viola 6 2nd Viola 6
3rd Viola 6 1st Cello 6 2nd Cello 6 3rd Cello 6 Contrab. 8
Symbal TamTam Tambouline Triangle Harp 4
Harmonium Grockensp. Bass Drum Side drum Celesta
Slapstick


《おもな登場人物》
エレクトラ (ソプラノ) アガメムノーン王の娘。母へ復讐することを願っている。
クリュタイムネストラ (メッゾ・ソプラノ) エレクトラの母。エギストと恋仲で、共同謀議でアガメムノーンを殺害。
オレスト (バリトン) エレクトラの弟。行方不明になっている。
クリソテミス (ソプラノ) アガメムノーンの娘。エレクトラの妹。過去を忘れ、ただ小さな幸せを願っている。
エギスト (テノール) クリュタイムネストラの愛人。王殺害でエレクトラの恨みを買っている。



■概要

 前作《サロメ》にて、聖書を底本としたオスカー・ワイルド原作の世紀末的劇性を十全に音化して評判をとったリヒャルト・シュトラウスは、次作で古代ギリシアの題材に目をつける。《エレクトラ》である。そして、のちにシュトラウス・オペラの脚本を一手に引き受け、名コンビとなるフーゴー・フォン・ホーフマンスタール、まさに彼ホーフマンスタールとシュトラウスの共同作業第1作目が、この《エレクトラ》でもある。

 ホーフマンスタールとシュトラウスが最初に出会ったのは1900年の3月だが、当時バレエでの共同作をもちかけたホーフマンスタールに対し、オペラ《火の試練》を作曲中だったシュトラウスはそれを棚上げにし、むしろオペラでの協力をホーフマンスタールにもちかけた。しばらくの間二人は文通を行うが、1903年10月6日、ソフォクレスの『エレクトラ』を底本にしたホーフマンスタール作の劇(オペラではない)「エレクトラ」がベルリン小劇場にて初演される。それに触れたリヒャルト・シュトラウスは、この「エレクトラ」の劇作に大いに関心をいだき、3年後にはホーフマンスタールと、オペラ化を前提とした綿密な交流を行う。
 但し、2つの理由により、1906年にホーフマンスタールとともに始められた《エレクトラ》の創作は、その後2年以上の歳月がかかっている。まずひとつは、ベルリン王立劇場付きの指揮者でもあった彼シュトラウスは、各地のオケへの客演がひきもきらず舞い込みそれに忙殺されていたことと、また《サロメ》にて強烈な音響的色彩効果で世間を驚かせた作曲家として、次作に――しかも一見、内容として類似しているその台本に――響きの新しさ、新鮮さを与えられるかどうか、シュトラウスのなかに不安があったからである。じっさい1906年6月にシュトラウスがホーフマンスタールに、第1幕の作曲を始めたが困難な創作である旨の報告をしている。
 当時、ホーフマンスタールは反ワーグナー的な創作信条をもっており、実際この《エレクトラ》を共同創作している際も、シュトラウスとの間で「ワーグナー風に作曲することの是非」についての駆け引きがあったようだが、結局1908年9月に完成した当作品は、鋭い不協和音とロマン的和音色彩をもった、発展的後期ロマン派、ワーグナー風の響きをもつものに仕上がった。オーケストラの響きも大変に厚く、響きが肥大化した当時の典型的な作品である(但しワーグナーほど肥厚した音が聴かれないのがリヒャルト・シュトラウスのオーケストレーションたる所以であろう)。
 なお、「モーツァルト風」もしくは「バロック風」を求めるホーフマンスタールの意向は、20世紀を生きる作曲家としてワーグナーを意識せざるを得ないシュトラウスにとっても否のあろうはずもなく、次の大作《薔薇の騎士》およびその次の小編成作品《ナクソス島のアリアドネ》に反映される。

■内容

(アガメムノーン王とクリュタイムネストラとの間に生まれた娘、エレクトラ。エレクトラは、亡き父の仇を討とうと願っている。そしてその仇とは自らの母クリュタイムネストラ。というのも、クリュタイムネストラはアガメムノーン王がトロイ遠征で留守の間、エギストと不倫関係に陥り、そしてこの二人は帰還したアガメムノーン王を共謀して殺害してしまう。劇は、このようにエレクトラの「腹に一物」ある状態から幕を開ける)

 第1幕(全1幕)
 古代ギリシア、ミケーネ城。
 ニ短調 モデラート・アッサイ 4分の3拍子。オーケストラがフォルティッシモで、飛び上がるような全合奏を4小節だけ奏する短い前奏(アガメムノーンの動機)を経て、幕が上がる。
 第1部 宮殿の中庭で、下女たちが水汲みの用をしながら、エレクトラの気が触れたような振舞いについて噂する。彼女たちの対話形式は Sprechgesang (語りと歌の中間に位置する唱法)風の様式で描かれており、無調的である。
 やがて下女たちが去り、ぼろをまとったエレクトラが現れる。彼女は父アガメムノーンへの敬慕の念を改めて思い出す。「アガメムノーン」と叫ぶ時、その旋律は冒頭の前奏、アガメムノーンの動機である。続けて嬰イ長調、ヴァイオリンに乗って「アガメムノーンの子どもたち」の動機が流れる。エレクトラは父親の仇討ちを誓い、激しい憎しみに震える。そして母クリュタイムネストラとエギストを殺し、その骸の上で踊ることを願う。「復讐の踊りの動機」が金管によって奏される。そこに妹クリソテミスが現れ、復讐は思いとどまるように姉に言う。エギストとクリュタイムネストラが、エレクトラを死ぬまで幽閉しようとしていることも。二人の対話は激しいやりとりとなり、やがてクリソテミスのモノローグが始まる。それまでの無調性不協和音型の楽想は調性を取り戻し、変ホ長調で彼女は優美に、ひとりの女としての幸せを守りたいことを歌う。しかし後半、エレクトラの「やかましい音がする」と城内から聞こえるムチの音に気づく発言から、音楽は不安感を取り戻す。クリソテミスは母について語る。彼女は行方不明のオレストのことを夢にみて、恐ろしさに呻いているのだと。ムチの音は聞こえ続ける。クリソテミスは走り去る。
 第2部 クリュタイムネストラとその行列が、薄気味悪い行進曲風の旋律を伴って現れる。続くエレクトラとクリュタイムネストラの対話から、クリュタイムネストラのモノローグ。クリュタイムネストラは日々の悪夢に苦しんでいる。彼女はエレクトラに「彼女は今日はいやらしくない、まるで医者のように言葉を発する」と、二人で話をしたいとエレクトラに近づく。悪夢から解放されるための呪文を知っているというエレクトラにクリュタイムネストラはそれを教えてくれるよう懇願するが、残酷に焦らしていくエレクトラ。そしてその治癒には生贄が必要だと伝える。オーケストラが符点付き上昇音階を強奏する金管主導で激しく立ち上がり、長いモノローグでエレクトラは、その生贄はクリュタイムネストラであり、オレストが帰ってきたらその儀式を果たすのだと叫ぶ。恐ろしさに慄くクリュタイムネストラ。そして二人は激しい憎しみの目で見つめ合う。そこに侍女が現れ、クリュタイムネストラに何事かささやく。はじめ彼女は不思議な表情をしていたが、やがて歓びに打ち震えるようにして出て行く。
 第3部 クリソテミスが現れ、「オレストが死んだ!」とエレクトラに伝える。乱舞する「アガメムノーンの子どもたち」の動機。エレクトラは最初信じないが、やがて自分たち姉妹のみで復讐を遂げなければならないと心を決める。しかしクリソテミスはやりたがらない。懇願するエレクトラ。激しく拒絶するクリソテミス。やがて逃げ去っていくクリソテミスにエレクトラは呪いの言葉を投げる。エレクトラは独り復讐を決意し、父が殺害されたときに使われた斧を土中から掘り出す。父親でもある王への想いを示すように、アガメムノーンの動機が鳴り続ける。
 そこに現れるひとりの男。激しくチェロに出るオレストの動機。冒頭は「わたしはオレストの死を伝えに来た伝令」と伝える。ただ哀しみのみを抱き、伝令に対して我関せずのエレクトラ。伝令はしつこくエレクトラに誰何するが、エレクトラは答えない。さらに水を向ける伝令に、「わたしはエレクトラ」と答える。驚く伝令。彼は低い声で「オレストは生きている」とエレクトラに伝える。希望を取り戻すエレクトラ。「エレクトラ和音」が奏される。こんどは逆に伝令に誰何するエレクトラ。「庭の犬どももわたしを見知っているのに、姉さんにはわたしがわからないのですか」と答える伝令。この伝令こそ、かのオレストであった。「オレスト!」オーケストラは激しく不協和音を含んで鳴り、混乱と激しいエレクトラの昂奮を表現する。やがて落ち着きを取り戻したエレクトラ、変イ長調の弦主導の柔らかな旋律に乗って、オレストと再度巡り会えた歓びを歌う。しかし続いていまの自分が如何に美しさを損なったか語り、今の姿を羞恥する。オレストは復讐の決心をする。エレクトラは高揚し、「自己の行いに至るものは幸いだ」から始まる、オレストの行いを賞賛する歌をうたう。オレストの後見人が口を出し、「少しの物音さえわれわれの仕事を駄目にする」と二人に警告する。オレストはやがて決心し城内に入る。
 低弦が速いパッセージでエレクトラの動揺を示す。オレストが城内に入る姿を見ながら、「彼に斧を渡すことができなかった!」と悔恨するエレクトラ。やがて騒ぎになり、クリソテミス以下侍女たちが、城の異変を聞いて飛び出してくる。しかしエギストが現れたことを知り、急いで私室に戻る一行。エレクトラは闇夜の中、明かりを求めるエギストの声に泰然と出てきて、彼に明かりを与える。城内に入るエギスト。やがて吹き上がるホルン。クリソテミスが現れ、「オレストがやったのよ!」とオレストによる復讐の成就を伝える。全音階的に合唱とクリソテミスがその歓びを歌う。やがてクリソテミスとエレクトラの二重唱となり、復讐成就の歌をうたうエレクトラと弟の身を思うクリソテミスの思いが示される。豊饒極まるオーケストラの響き。やがてエレクトラはかつての思い通り、復讐の舞踏を踊る。様々な動機が登場し、アガメムノーンの動機もまた繰り返し現れる。クリソテミスは戸口に駆け寄り、オレストを呼ぶ。オレストから帰る声は聴こえず、アガメムノーンの動機が鳴る中、余韻を残さず幕となる。

■付記

 冒頭から長い間の不協和音と苦悩の響きから一転し、オレストの出会いから復讐成就までの豊かで精緻を凝らしたオーケストラの響き、そして抑圧から解放へ至るという意味での実にワーグナー的な構成。凝縮から開放に至る楽想と脚本。実に見事である。
 なお、劇中エレクトラはほとんど出ずっぱりで延々難しい歌をうたう。さぞかし大変だろう。エレクトラを得意としている歌手の多くがバイタリティーに溢れた姿をしているのも如何にもよく理解される。このいかにもな大変さは、能狂言の専門用語でいえば「極重習」である。

(up: 2015.3.21)
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