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チェリビダッケ晩年のチャイコ5。「精神性」とは、そこに没入せられた人間の努力と意志力であることを改めて感じさせられる。激遅なのに弛緩を全く感じさせない。全編これ緊張感のみで仕上がっている。テヌートでも絹のように鳴るトランペット。ザドロの叩く雷のようなティンパニ。玲瓏で勁いクラリネット。どのくらい練習したらこんなオケになるのか。



最晩年のカラヤン/VPO盤。やや弛緩したところも見えるが、VPOはきちんと帝王をフォローして音楽にしている。BPOが電気増幅したみたいにガンガン鳴る自我剥き出しの70年代盤より、コクに優れたこちらの方をお奨めする。
 ▽ Peter Illich Tchaikovsky
Symphony No.5 in e-moll op.64
交響曲第5番 ホ短調 作品64


■作曲 1888年
■初演 1888.11 サンクトペテルブルグ
      チャイコフスキー自身の指揮による



チャイコフスキー交響曲第5番第1楽章 (部分)

Mravinsky / Leningrad Philharmonic Orchestra
全篇これ緊張感。ロマンティッシェの薫りは余りなく、ただロシアの冬の厳しさだけが切々と胸に迫る。ムラヴィンスキーの指揮を見る限り棒は上手くないが、もちろんタクト捌きが上手いとか下手とか、そのような次元を超えている。左手でオケを煽るごとにナンボでも音量が高まっていく。驚異的。

《楽器編成》
Fr. 2, Pic. 1 Ob. 2 Cl. 2 Fg. 2
Hr. 4 Tromp. 2 Trb. 3 Tuba Tim. 2
1st Violin 2nd Violin Viola Cello C.bass


■概要

 第五番交響曲。人は第五と聞くとベートーヴェンの「運命はこのようにして戸を叩く」交響曲を想起するだろう。

 チャイコフスキー(1840-93)とベートーヴェンとは生まれまた生きた場所も、その年代も違う。にも関わらず、ベートーヴェンの第五交響曲、チャイコフスキーの第五交響曲は共通する要素がある。それは「苦悩を経て歓喜へ」という主題、それである。

 チャイコフスキーは生涯で合計6つの交響曲を作曲した。4,5,6番は特に「チャイコフスキーの後期三大交響曲」と呼称される。チャイコフスキーは1887年12月に西欧への演奏旅行へ出ており、ライプツィヒ、ハンブルク、ベルリン、プラハ、ロンドンを歴訪、自作を指揮し、翌1888年3月に帰国した。第五交響曲が正確にいつ着手されたのかは定かではないが、彼自身が「ある人」に宛てて書いた手紙の内容により、1888年6月初旬に作曲の着手があったことが分かる。因みに「ある人」とはフォン・メックという名の夫人のことで、この未亡人は1877年以来、チャイコフスキーが作曲に専念出来るよう生活費を送付していた。
 彼は当時健康を害していたにもかかわらず、1888年の8月26日には完成が伝えられている。チャイコフスキー48歳の夏であった。
 同曲は1888年11月17日にペテルブルグの音楽協会演奏会で、作曲者本人指揮のもと演奏され、好評を得た。ヨーロッパにおいても、1877年に完成した第4交響曲〈作品36〉同様、第5は喝采をもって迎えられた。しかしながら当初チャイコフスキーは第5交響曲を気に入っていなかったことが、同年12月メック夫人宛の手紙で了解される。その手紙にはこうある。
 「……わたしはあの曲が失敗作であるという結論に達しました。あの曲のなかには、なにかイヤなものがあり、大げさに飾った色彩があり、拵えものの不誠実な混ざりものがあって、それが人々には本能的に感じられるのです。私に与えられた喝采が、私が前に作った諸作品によって起こったものであって、この交響曲自身は決して人々を喜ばせたのではないことが、私によくわかります。…(中略)…昨夜、私は、あなたと二人の交響曲である第4番を調べてみました。何という違いでしょう。そちらのほうが何と優れていることでしょう。これは全く悲しいことです」
 当代きっての大作曲家ブラームスも、同曲に込められた「苦悩する人間が悲しみに打ち克つ」というようなテーマに対し「愚かなことだ」と酷評した。作曲者自身の、第5交響曲に対する低評価もまた翌年まで続く。しかし1889年に彼がドイツ・ハンブルグで同曲を演奏した際、その練習で楽団員が同曲を大変褒めた。それによりチャイコフスキーは考えを改め、第5について、弟に宛てた手紙のなかで「私はこれまでこの曲を低く評価してきたが、今ではこの曲を以前よりもずっと好んでいる」と書くに至った。

 同時期のロシア作曲家に「ロシア国民楽派」というのがある。源流を『ルスランとリュドミラ』などの作曲で有名なグリンカにもち、ムソルグスキー、リムスキー・コルサコフ、ボロディンなどが属する一派である。彼らとチャイコフスキーが異なるのは、民族的旋律・ロシア的表現を旨とする国民楽派に対し、チャイコフスキーはドイツを始めとする西欧音楽にその理想を見ている《ように聞こえて仕方がない》ことだ。空に向かって手を伸ばす子供たちのように、彼の曲は西欧音楽へ手を伸べているように聞こえる。チャイコフスキーの手になる曲はそのどれもが、無論スラブの匂いを持つのだが、どこかドイツ的であり、ヨーロッパ的であり、ロマン的である。

 チャイコフスキーの第5。この曲は作曲から百年以上を経た今なお、演奏会の人気プログラムとして非常に屡々取り上げられる。同曲の良さ・特徴・魅力はといえば、他でもない「分かり易さ」、そしてチャイコフスキーらしい「甘美にして叙情的な旋律」だというに尽きるだろう。

■内容

 第1楽章 アンダンテ−アレグロ・コン・アニマ ホ短調。"pesante"(重々しく、厳粛に)指定の弦が二分音符で支える中、クラリネットが低音域で奏する変ロ長調の序奏動機は、四楽章を通じて現れる主要動機である。アンダンテ指定の序奏を経て、アレグロ・コン・アニマの主題提示部に入る(時間目安 2:40-。以下時間表示は'85年録音カラヤン/VPO盤に依る)。ポーランド民謡からの節であるといわれる第1主題へ。寂しそうな逍遙をクラリネットとバスーンが奏する。それは弦合奏によって模倣され(3:12-)、膨張し、全合奏に至る(3:51-)。ここで屡々登場する付点8分音符-16分音符-8分音符、という、口頭で示すと「ダン・ダダン」というリズム、それはチャイコフスキーの「運命リズム」だといっていい。116小節から、穏やかに湖面がたゆたうような第2小題がロ短調・弦合奏で出る(4:35-)。のちMolto piu tranquillo(ずっと平静に)という指定で副次主題が登場する(6:03-)。ニ長調である副次主題は、第2小題よりも尚穏やかで、幾ばくか暖かだ。先に湖面を想起したので、その湖面に差す束の間の日差しという感じか。実に美しい。にわかに日差しは強くなり、力強く上昇する弦合奏につられるかのようにフォルティッシモによる全合奏が行われる。192小節からのこれは、主題提示小結尾部である(6:55-)。畳みかけるような全合奏の運命リズムが奏される後、1番2番ホルンがソロで鳴り、展開部へ入ったことを知らせる(7:23-)。変形第1主題がビオラ、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリンの順で支えられた後、展開された第2小題が269小節から登場する(8:35-)。しかしすぐにバスーンが再び変形第1主題を提示し、それが支えられていく(8:46-)。この辺は平穏・秩序を望む心持ち(第2小題)と運命に立ち向かう勇者の心持ち(運命リズム、第1主題的な動機)の葛藤のようにも聴かれる。それらが絡まり合いながら頂点を形作り(9:17-)、じき曲想が落ち着いた頃、バスーンによって再現部が開始される(9:49-)。提示部に見られたいわく寂しげな第1主題が同じロ短調で登場し、しかし提示部でのそれよりも幾ばくかの装飾を与えられながら頂点を築き上げ、molto espressivoの再現部第二主題へと移る(11:11-)。それが426小節まで続き、ホ長調の副次主題が現れる(12:38-)。提示部の副次主題よりも随分熱を帯びている。熱は更に盛り上がりを見せ、再現部小結尾部へ至る(13:35-)。金管が輝かしい小結尾部はじき過ぎ、ホルンのハーモニーが鳴れば楽章結尾部に入る(14:02-)。木管合奏を弦が追い掛ける形で第1主題が力強く奏され(14:20-)、楽章は遂に全合奏で勇壮なクライマックスを迎える(14:39-)。だがそれは少しづつ萎んでいき、バスーンを中心として第1主題のような音型をなぞりながら、幾分寂しく楽章を終える。

 第2楽章 アンダンテ・カンタービレ・コン・アルクーナ・リチェンツァ ニ長調 8分の12拍子。ビオラ・チェロ・バスが、静かに重々しく大地から湧き出す中、憧憬を湛えたホルンが主旋律を吹奏する(0:50-)。美しいホルン旋律がたおやかに聴かれたのち、コン・モートでオーボエが副次旋律を出す(2:28-)。副次旋律は素朴な明るさをもつ。中学生当時の、ちょっと可愛い女学級委員長が遊び疲れて木陰で休んでいる風情。先にホルンが吹いた主旋律を、今度はチェロがなぞる(3:11-)。にわかに盛り上がりを見せた後、副次旋律が弦合奏に出る(4:12-)。旋律は熱を帯びてゆき、非常に強い全合奏で小結尾部へ入る(4:56-)。旋律は変形された副次旋律だ。それは上下降を繰り返しながら静けさを少しづつ取り戻し、モデラート・コン・アニマ(中ぐらいの速さ;活気をもって)の中間部へと移る(5:48-)。嬰ハ短調4分の4拍子。中間部に入るとすぐにクラリネットが異国情趣を感じさせる旋律を出す。それはバスーンによって受け継がれ、更に弦が引き継ぎ、膨張と縮小を繰り返しながら次第に巨大になり、運命動機へと形を変え(7:31-)、爆発する。爆発し、静寂(7:51-)がややあった後、拍子は8分の12に戻り、主部再現部へと移る(7:53-)。最初にホルンに出た音型はヴァイオリンが幾分自信ありげに奏し、それをオーボエが装飾する。ホルンその他が加わり暫時膨張した後、音型は木管群に継がれる(9:31-)。全合奏で同様の動機をためつすがめつした後、フルートと弦合奏に副次主題が出る(10:18-)。最初の頃とは違い、随分情熱的な風情だ。先に出た学級委員長は、あばずれとまでは言わぬが踊り子くらいにはなっている。恰幅がある美しさだ。華やかに過ぎて映画音楽のようにも聞こえる。副次主題は頂点まで水膨れし(11:00-)、そののち段々萎んでいく。処が突然トロンボーンとテューバに運命動機が嬰ト長調で登場し(11:26-)、嵐のような曲想が少しだけ出る。じきに静かになり、曲は終結部へと入る(12:09-)。緩やかな曲想を保ちつつ、磨り減ったような副次主題の断片が何度も、形を小さくしつつ現れ、静かに楽章を終える。

 第3楽章 ワルツ  アレグロ・モデラート イ長調 4分の3拍子。三部形式。第3楽章にスケルツォではなくワルツというのは、チャイコフスキーならではといえるだろう。主部主題は冒頭からヴァイオリンに現れるあでやかなものである。それはやがてクラリネットが受け継ぐ(0:50-)。やがてピッツィカートがフォルティッシモで鳴らされると中間部へと入ったことを示し(1:41-)、ヴァイオリンがこちょこちょと動き回る旋律を出す。その旋律は最初各弦楽器に逐次受け継がれ、じき木管群にも受け継がれる(2:12-)。走馬燈のように(ところで走馬燈って何?)その旋律は各楽器で明滅する。鮮やかなピッツィカートがフォルテで一発鳴って、再びオーボエに主部主題が出る(3:17-)。主部再現に入ったことが知られる。しかし弦群は冒頭と変わって、中間部旋律の余韻を残しつつちょこまかと主題を装飾する。オーボエで出た旋律をヴァイオリンが受ける(3:28-)。再び曲想は旋律をためつすがめつし、主部主題の変形がヴァイオリンに登場する(4:58-)。ここから終結部へと入り、何処か気だるいような曲想の中、オーボエとバスーンに運命主題が出る(5:42-)。全体的に実にダルそうだ。ダルい中、突如6発の4分音符によるフォルティッシモの全合奏が起こって終結する。

 第4楽章 アンダンテ・マエストーソ−アレグロ・ヴィヴァーチェ ホ長調 4分の4拍子。いきなり弦ユニゾンがホ長調で壮麗に運命主題を出す。それは木管群に受け継がれる(1:14-)。ティンパニのトレモロがクレッシェンドするのを合図に、アレグロ・ヴィヴァーチェの提示部に入る(2:57-)。最初に登場する弦合奏中心の第1主題は豪華絢爛なものだ。オーボエソロ(3:20-)があり、軍隊の大行進のようなものが過ぎ去った後、第1主題がイ長調でフルート中心に、木管群に出る(4:01-)。これは旋律からいえば優美な憧れなのか。それとも一時の安らぎか。それにしても非常にせわしない。直後、第2主題を保持するような形で、しかしト長調で小変形された第2主題が弦に出る(4:20-)。処が、156小節の、メゾ・フォルテによる2分音符の下降音型は第2主題変形主題の継続ではなく、小結尾の頭である(4:27-)。そのまま膨張して行き、極めて勇壮かつ力強い運命動機を誘導する(4:42-)。それは緊張を保持しつつ、展開部へと移行する(5:12-)。冒頭の動機が少しづつ展開される。第2主題に範をもつ動機も登場し(5:44-)、それもまた展開されていく。ひとしきり音楽は盛り上がった後、にわかに静かになるが、突如爆発があり、再現部で第1主題が再び鳴る(6:49-)。様相を変容させつつ主題が移行し、じき木管群に第2主題が登場する(8:05-)。それは弦合奏に引き継がれ(8:25-)、熱さは度を失いながらポコ・メノ・モッソで運命動機を再び引き出す(8:51-)。ここは終結部の冒頭でもある(8:53-)。金管が咆哮する。じきにテンポ指定はモルト・ヴィヴァーチェとなり、主題はホルンとトランペットを先頭に突撃を開始する(9:05-)。しかし突進は足止めがかかり(9:38-)、モデラート・アッサイ・エ・マエストーソの指定で、ホ長調運命主題の輝かしい行進が開始される。やがてプレストとなり、再び急速な突撃が始まる(11:01-)が、終結直前には再び行進の威厳を取り戻し、高らかに武威を示しつつ楽章を終えるのである。

(up: 2009.1.4 旧WEBサイトに公表していた旧稿を書式のみ改訂)
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