▽ Petris Vasks
"Tala Gaisma" Concerto for violin and string orch.
《遠き光》 ヴァイオリンと弦楽オーケストラのための協奏曲


■作曲 1997年
■初演 1997.8.10 ザルツブルグ(ザルツブルグ音楽祭)
      クレーメル独奏、クレメラータ・バルティカによる

《楽器編成》
solo violin
1st Violin 12 2nd Violin 10 Viola 8 Cello 6 C.bass 4


■概要

 1991年、ソヴィエト連邦は、バルト三国の独立を、ついに認めた。
 バルトのひとびとは、大いに湧いた。
 ただし単純なオマツリ騒ぎではない。ここに至るまでに、独立運動があり、ソ連の弾圧があり、戦闘があった。独立のために流された血があった。既に失せた同郷の仲間があった。独立は、彼らとともにあった。そして、さればこそ、故郷を誰よりも愛するひとりの作曲家は、心の声を旋律とした。1991年に日の目を見た交響曲《声》がそうであり、またこの《遠き光》がそれである。
 1996年、ヴァスクスはクレーメルと共にあった。ラトヴィアの旧都リガにおいてである。バルトの音楽家で構成する弦楽合奏団クレメラータ・バルティカの編成に没頭していたクレーメルは、ヴァスクスに対し、当オーケストラのために一曲書いてほしい、と求められる。ヴァスクスは承諾、果たして1年後にそれは完成した。
 慈愛と哀しみが溢れるような曲が、完成した。

 慈愛と哀しみ。
 それは祖国の歴史に対して、ヴァスクスが、バルトの人々が捧げる、二つながらある真実の心であるように思われる。

 + + +

 楽曲は単一楽章で構成されている。演奏時間は約30分。

■内容

 第1楽章 ピアニッシモにてソロ・ヴァイオリンがグリッサンド上昇する音型から始まる。合奏のピッツィカートを挟みながら、幾度か上昇を繰り返す。やがてEDCで構成されている主旋律的な部分が登場する。ハ短調とホ長調の間を揺動するような調性である。あくまでも静謐で、祈りのようである。やがてソロ・ヴァイオリンに激しい、一瞬の怒りのような旋律が現れる。次にすぐ低弦を中心に、ゆったりとたゆたうような、重みを感じる節が出、冒頭主旋律的雰囲気が戻ってくる。曲想はそのままに、次第に緊張感を高めてゆき、想いの吐露のような強い全合奏となる。ヴァイオリンの切分音に先導されて一瞬行進曲のようになるが、ここでペンタトニック的な、民謡舞曲のような旋律が、スタッカートを伴って、意気込んだ形で出る。曲想は戻り、ソロ・ヴァイオリンがカデンツァのようなフレーズを弾くと、先の民謡舞曲が更に重みを増して登場してくる。ひとしきり盛り上がった後、雰囲気が突然暗くなり、半音進行的な装いの伴奏と、蕭々たる月の光を模写したかのようなソロの組み合わせとなる。やがて乱暴な雰囲気となり、不協和音を利用して空に拡がるような旋律である。これがしばらく続く。切分音で構成された、ソロが階段を上るようなフレーズが出、また一種違う旋律が登場する。突然、嵐のような曲想となり、或いは群衆の描写のような力を感じさせる雰囲気となる。突然静かになり、主旋律と似たような雰囲気、しかしより複雑な旋律が出る。祈りのような曲想が帰ってきて、静謐なフレーズを示す。ゆるやかな上昇音型を描く旋律。続いての旋律は全音階的に出る。静かなままで、やはりソロが全音階的に上昇するフレーズを奏する。冒頭の雰囲気が戻ってきて、G#-F#を繰り返す旋律で、静かに終わる。

■付記
 静と動、柔と剛の交替がいちじるしい。或いは、音楽の内側に相矛盾するものを包含するのがヴァスクスの音楽だとすると、むしろ当たり前であるといえよう。対して、明と暗の交替があまり見あたらないのは非常に意味深である。楽章の途中にて雰囲気が暗くなる部分以外には、それは見つからない。無調性側の音楽であれば必然であるともいえようし、明度よりも質感の変化を嗜好する後期ロマン派以降の特色であるともいえる。

(up: 2009.7.27)
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