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1955年録音、セラフィンとスカラ座管の演奏。モノラルだが音は悪くない。カラスの役への没入が素晴らしい。命がけのその強烈な歌唱は一聴の価値あり。キャストではアモナズロをティト・ゴッビがやっており、これまたはまり役。 【DVD】 レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場の演奏。ラダメスのドミンゴはさすがに年取りすぎで厳しいが、若々しさを出そうと一生懸命頑張っている。またメトロポリタン歌劇場という歌手殺しのマンモスホールでの演奏だが、アイーダ役のアプリーレ・ミッロの声量的踏ん張りが非常に印象的である。アムネリス役のドローラ・ツァーイックは響き切らないところがあるが、それはしようがなかろうこんなデカいホール作るほうが悪い。演技は性格的で非常にうまい。 |
▽ Giuseppe Verdi
■作曲 1870年 ■初演 1871.12.24 カイロ オペラ座 ■台本 アントニオ・ギスランツォーニによる ■言語 イタリア語 ■時代 古代エジプト ■場所 エジプト |
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《楽器編成》
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■概要 ヴェルディ第24作目のオペラにして、ヴェルディ中期を華々しくしめくくる最高傑作である。 1870年、ヴェルディはエジプト総督からエジプトを舞台とした作品の作曲依頼を受ける。実は前年、スエズ運河開業式典のための祝賀曲作曲を同人から受けており、その時は、「自分は機会音楽は作れない」と断っていたが、この委嘱については、莫大なギャランティーを前提に引き受ける。 原案は、この委嘱の際に総督が提供した題材であり、ルーブル美術館所属の考古学者オーギュスト・マリエットによるものである。これをカミーユ・デュ・ロクルとヴェルディ自身が監修し、台本化、それをさらにアントニオ・ギスランツォーニが完成した。 作曲はその後急速に進められ、1870年末には総譜まで完成した。ギスランツォーニが台本の冒頭をヴェルディに送付したのが1870年7月であってみれば、半年を経ぬうちにほぼ完成したことになる。恐ろしいスピードである。 初演は1871年12月24日。1870年、上演準備中のパリが晋仏戦争で包囲され、舞台装置が届かなかった関係で1年近く初演が遅れはしたものの、カイロでのそれは大成功をおさめた。それ以来、この作品はヴェルディの作品中でも最も人気のあるオペラであり、かつ上演回数も最も多いが、その理由はヴェルディ最盛期の作品であり作曲が安定していることと同時に、シナリオの単純さ、主要登場人物の少なさ、間延びする危険性がある第2幕に最も盛り上がる〈凱旋行進曲〉が含まれること、第4幕の「敵役」アムネリスの人間性、などに帰することができるだろう。 なお、この作品には、「アイーダ・トランペット」とも呼ばれるファンファーレ・トランペットがバンダ(舞台上に別枠で設けられたオーケストラ)にて効果的に使用される。本来蝸牛のように曲げられている主管がまっすぐになっているトランペットは、見た目にも特別感を醸しだしており効果的である。 ■内容 前奏曲 アンダンテ・モッソ。ニ長調。4分の4拍子。アイーダを表すヴァイオリンのシンプルで清澄な上行的旋律から始まる。やがて祭司たちを示す低弦の旋律からフガート的展開となり、一瞬の盛り上がりを見せる。静かにアイーダ主題に戻った後、再度クライマックスに至る。やがてピアニッシモの和音分散上行音型で静かに幕が開く。 第1幕 第1場 メンフィスの王宮の広間。 祭司長ランティスとエジプトの若き将軍ラダメスが現れる。ランティスはエチオピア掃討軍の総大将の大役をイシス神の神託により受けてきたことをラダメスに伝える。ラダメスは王女付きの女奴隷アイーダを密かに愛している。アイーダは実はエチオピア王アモナスロの娘であるがここでは誰も知らない。ラダメスは「総大将になれたら敵を撃破し、その手柄にアイーダを貰い受け、一緒になりたい」というロマンツァ〈清きアイーダ〉(ト長調)を歌う。 変ロ長調の優雅な旋律とともに王女アムネリス登場。彼女はまた密かにラダメスに思いを寄せている。ラダメスを励ますべく出てきてはいるが、夢を語るラダメスの様子をみて、他に想い人が居るのではないかと訝る。ラダメスとアムネリスの内心の二重唱。二重唱はアレグロ・アッサイからアレグロ、ピウ・レント、そして疑うアムネリスと心を探られまいとするラダメスの葛藤が始まるところからプレストで急迫性を増す。そこに運悪しくアイーダ登場、音楽はなおも搖動する。アイーダは祖国とラダメスへの愛を、アムネリスはラダメスとアイーダの関係を訝る想いを、ラダメスは密かなアイーダへの愛を歌う。 国王と従者が現れ、やはりイシスの神託により、ラダメスをエチオピア掃討軍の総司令に任命することを示す。ラダメスは「勝ちて帰れ」と歌うアムネリスから軍旗を受け取り、人々は鬨の声を上げるが、密かにアイーダは祖国の敵軍総大将がラダメスとなったことを悲しむ。やがてアイーダはひとりになり、祖国への愛情と、ラダメスへの愛情との相剋に悩むシェーナを歌う。 第2場 火の神フターの神殿。 アンダンテ、変ホ長調で神秘的な祈りの歌が流れている中、武運を願う祭祀が行われている。炎の祭壇の前では、巫女が神舞を舞う。ラダメスは祭司長ランフィスから神剣を授かり、共に勝利を願う。ラダメスとランフィスの二重唱から合唱も合わさって荘厳な音楽となり、その雰囲気のまま幕を下ろす。 第2幕 第1場 アムネリスの部屋。 テンポ・ジゥスト、4分の4拍子、ト短調、ハープの音で異国情緒豊かに始まる。すぐに女声合唱につながる。エジプトの勝利が伝えられる宮殿内のアムネリスの私室である。王女アムネリスは、凱旋式に出席するため侍女たちに身支度をさせている。侍女とアムネリスの女声合唱となり、アムネリスはラダメスが戻ったことの喜びと、触れ合う期待を歌う。やがて音楽はピウ・モッソ、変ロ長調の軽快なものとなり、バレエを挟む。その後再度同じ旋律の女声合唱となり、やがて侍女は退がり、アイーダのみが残る。アイーダは祖国が敗れたことに内心悲しんでいる。アイーダとラダメスの関係を疑うアムネリスは、アイーダに対し「ラダメスが戦死した」という嘘を伝える。驚き、落胆するアイーダをみて、アムネリスは自分の疑いが正しかったことを知る。アムネリスはアイーダに「身分違いの恋は諦めよ」と歌い、それを聞いたアイーダは「自分も王族の娘」と言いたい気持ちを抑える。「あなたさまは幸せで力もある、引き換えわたしはこの恋に生きるしかない」と悲しげに歌う。 突然マルツィアーレつまり行進曲となり、変イ長調で合唱が聞こえてくる。凱旋式の準備が整ったのである。アムネリスは凱旋式の主役を務めるべく去る。ひとり残ったアイーダはひとり、第1幕第1場最後のシェーナと同じ旋律で、神の慈悲を悲しげに求める。 第2場 グラン・フィナーレ テーベ城門。 凱旋ラッパのファンファーレから、《アイーダ》の最も有名なシーン、最も有名な旋律が登場する。〈凱旋行進曲〉である。4分の4拍子。変ホ長調。構成としては、合唱の壮麗な主題、カンタービレで歌われる副主題、男声バス合唱に率いられて膨らんでゆく行進曲主題に続いて、アイーダ・トランペットに先導される凱旋主題、そののちにバレエ音楽が挟まり、合唱主題再現部+コーダとなっている。 凱旋では王およびアムネリスが王座につき、従者もそしてアイーダもしかるべく揃っている。凱旋が終わり、勝利した将軍ラダメスは王に、褒美の品を聞かれる。そんな中、アイーダは捕虜のなかにエチオピア王でもある父アモナズロが一兵士の姿をして居ることに驚く。アンダンテ・ソステヌート、ニ短調でアモナズロの独白が始まり、アモナズロとアイーダはエジプト王に慈悲を乞う。ラダメスはアイーダを哀れに思い、そしてアムネリスはラダメスの心を疑う。それぞれと民衆の合唱が和し盛り上がる中、ラダメスは捕虜の釈放を王に要求する。祭司長ランフィスは反対、民衆たちが奴隷に同情を表現するコンチェルタートとなるが、王はランフィスの助言に従ってラダメスの要求を拒み、アモナズロを人質とし、その他を釈放すると宣する。王は続けてラダメスの褒美としてアムネリスを与えるので、彼女と結婚し将来は国を継ぐようにと伝える。ここで〈凱旋行進曲〉の合唱主題が再現し、イシス神の栄光と凱旋将軍を称え、万人の歓呼となるが、アイーダとラダメスは内心深い悲しみに暮れる。 第3幕 第1場 ナイル河畔、イシスの神殿の前。 ト長調、アンダンテ・モッソでヴァイオリンに先導された弦楽器のアルペジオがピアニッシモで奏される中、フルートに星がまたたくような浮遊感ある旋律が出て幕が開く。星空の中、アムネリスは祭司長ランフィスに先導され、イシスの神殿に婚礼の儀をあげるために入ってゆく。権謀術数うずまく歌詞旋律がふんだんに与えられるアムネリスだが、ここでは乙女である。一晩中祈るようにランフィスに言われ、それに従う。 アイーダはこのナイル河畔でラダメスを待っている。待つ間、アイーダは故郷を想い、アンダンテ・モッソ、ヘ長調で実に美しいアリア〈おお、我が故郷〉を歌う。そこに父アモナズロが現れ、アイーダとラダメスの関係を利用してエジプトの軍事機密をラダメス将軍から聞き出すように、娘に促す。アイーダは激しく拒絶するが、アモナズロは、再びエジプトに祖国が蹂躙されるがそれはお前のせいだ、「お前はもう娘ではない、ファラオの奴隷だ!」と恐ろしい剣幕で迫る。半ば強引にアイーダをそこに置いて、アモナズロは岩陰に隠れる。 そこにラダメス、「わたしのアイーダ」と現れるが、アイーダはアムネリスとの婚礼を控えるラダメスに冷淡である。しかしラダメスは「愛するのはアイーダただひとり」と激しく求愛する。そこでアイーダは、「わたしを愛しておいでなら、わたしと一緒に逃げて」と告げる。驚くラダメス。二重唱で、すべてを捨てて一緒に逃げて下さいと訴えるアイーダ。若くして栄光と愛を見つけた祖国を捨てるわけにはいかないと逡巡するラダメス。そして遂にラダメスは逃げる気になる。エジプト軍をかわして逃げなければならないが、その道は何処かとアイーダに問われて、ラダメスはつい「ナパタの峡谷なら、急襲に備えて今は無人」と答えてしまう。いきなり飛び出してくるアモナズロ。アモナズロはエチオピア王と名乗り、そしてラダメスは女のために祖国の秘密を告げたことを深く後悔するが、アモナズロとアイーダに誘われ、一緒に逃げようとする。ここで神殿から登場してくるアムネリス、「裏切り者!」とラダメスを罵り、衛兵たちが急行する。ラダメスはアイーダとアモナズロを逃し、自分は祭司長ランフィスに佩剣を渡し、「この身をいかようにも」と観念し、捕らえられる。 第4幕 第1場 王宮の一室。 音楽はト短調、アレグロ・アジタート・エ・プレストで急迫性を帯びて始まる。まずアムネリスが現れ、ラダメスへの愛情と、彼がした祖国への裏切り行為を思い悩む。ヴェルディは非情ではない。アムネリスにここで、愛する人に愛されない哀しみを一瞬、歌わせる。アムネリスの人間性がかいま見える一瞬である。アムネリスは、ラダメスが自分を愛してくれるならば死罪から救おうと決心する。衛兵にラダメスを呼ばせ、彼に申し開きを求めるが、既に死を覚悟しているラダメスはとりつく島もない。アムネリスは自分の、彼に対する愛情を思うだけ吐き出し、あの女を忘れて生きるように勧めるが、やはりラダメスに拒絶される。「あの人のために死ぬのであれば幸せ」とまで言われてしまい、宗教裁判室へ去っていくラダメスを追おうとするが、ひとり残され、そして哀しみに打ちひしがれる。裁判に付されたラダメスは一言も釈明せず、遂に裏切り者として死刑を宣せられる。その模様に耳を澄ましていたアムネリスは激しく動揺し、裁判を終えて出てきた祭司長に「罪なきものを罰するのですか」と詰めより、慈悲を求める。「あの者は死罪」とやはりとりつく島もない祭司長。彼女は祭司長および祭司に、「天罰を!」と呪いの言葉を投げる。 第2場 火の神の神殿と地下牢。 二重舞台となっており、地上はアムネリス率いる巫女たちが祭祀を行っている火の神の神殿が演出され、いっぽうラダメスが地下牢に生きたまま埋められている。ラダメスは死ぬことを覚悟しながら、しかしアイーダの行方を憂う。あなたは幸せに暮らしてほしい、と願うラダメス。そこに登場するアイーダ。驚くラダメス。彼女はこのような裁きになることを予測し、追手を逃れて先回りしてこの牢にきていたことを告げる。ラダメスはアイーダが死ぬことを最初は悲しむが、アイーダに天国で結ばれることを告げられ、同じように「この世の愛の夢ははかなく消えるが、わたしたちには天国が開かれている」とともに歌う。地上では第1幕第2場で登場した祭祀の旋律と同じ神秘的な旋律が流れ、巫女が神前で神舞を踊る中、アムネリスが祭壇で、ラダメスをイシス神が許し、彼が天国へ導かれることを祈る。地下ではラダメスとアイーダの二重唱が変ト長調、メノ・モッソで玲瓏に歌われ、二人はやがて静かに息絶える。地上ではアムネリスの、ラダメスの魂の平安を祈るピアニッシモの "pace" が連呼され、静かに幕を終える。 ■付記 元々の草案はいわば素人の原案によるもののため、例えばリヒャルト・シュトラウスとしばしば組んだ原作者ホーフマンスタールの手がけたもののような深い味わいのようなものはないが、ケレン味のない筋に沿って脂の乗り切った勢いのあるヴェルディトーンが流れるわけだから、面白くないわけがない。ただ、第2幕のグラン・フィナーレが音楽上、非常に盛り上がるだけに、その後の構成をどうしていくか、緊張感を如何に保つかということが演奏者にとっては非常に難しいオペラでもある。 また、メッゾ・ソプラノの敵役はどうしても非人間的に描かれることがあるが、ここでのアムネリスはどこもかしこも人間的で、愛する人に愛されず、愛する人を救おうとして救えず、ただひとり残されてしまう辺りは実に身につまされ、そして同感させられる。特に第4幕の彼女はとても魅力的である。 (up: 2015.2.14 ) |
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