コンテンツ > 音楽 > 作曲家 > ヴェルディ > 椿姫 | ||||||||||||||||||||||||||
クライバーとバイエルン国立歌劇場の演奏。ヴィオレッタはコトルバス。コトルバスの歌唱は一癖あるので好き嫌いがわかれる向きもあるが、悲劇性を背負っていてわたしは大変好き。クライバーの、線がやや細いがしなやかな鋼のようなドライヴもいい。 |
▽ Giuseppe Verdi
■作曲 1853年 ■初演 1853.3.6 ヴェネツィア テアトロ・フェニーチェ ■台本 フランチェスコ・ピアーヴェによる ■言語 イタリア語 ■時代 1850年代 ■場所 パリ中心部、および郊外 |
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《楽器編成》
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■概要 ヴェルディ第18作目のオペラにして、代表作の一つである。 1848年、24歳の青年作家デュマ・フィスが発表した『椿姫』は大きな反響を呼んだ。主人公は高級娼婦、しかし彼女は純粋な青年との出会いによって真実の愛に目覚め、社交界を捨てて二人で暮らし始める。しかし幸せな期間も長くは続かず、青年の父親が無理やり二人を別れさせようとする。。。 今となっては『椿姫』とその亜流が量産されすぎて、昼のドラマでいつも見るようなテーマに成り果てているが、当時この小説をベースにした戯曲を観劇後ヴェルディはいたく刺激を受け、すぐにフランチェスコ・ピアーヴェに台本作成をもちかけている。ピアーヴェはヴェルディ第16作目のオペラ《リゴレット》の台本作家でもある。 今でこそ同時代劇オペラの名作は複数存在するが、ヴェルディの作曲当時にはこのような現代劇をオペラとして扱うのはひとつの冒険であった。そのことから考えても、ヴェルディが如何にこの作品に魅せられたかということが了解されよう。 そしてヴェルディは興に乗ったとき、恐ろしいほどの速書きの腕を見せるが、このときも例外ではなかった。創作意欲を燃やしに燃やした彼は、着手から約1ヶ月半で作曲を完了した。 ではヴェルディが何故現代劇にここまで没入したかといえば、それは当時の境遇が関係している。 当時、彼ヴェルディは先妻に先立たれ、《ナブッコ》初演の際のソプラノ女優、ジュゼッピーナ・ストレッポーニと同棲関係にあった。ジュゼッピーナは控えめで美しい女性であったらしいが、違う男との私生児が二人おり、彼女を連れて故郷に帰ったとき、先妻の父つまりヴェルディにとっては舅にあたるバレッツィは全くいい顔をしなかったと伝わっている。 ヴェルディにとってジュゼッピーナはヴェルディがまだ名を成していない若いころに音楽界への紹介の労をとってくれた恩人であり、しかもこの頃の彼女は心身の疲労で声が出なくなり、華やかなプリマ・ドンナ時代今や昔の細々とした生活をしていた。一方、舅のバレッツィはもっとヴェルディが若いころ、音楽家にするために学費や生活費を工面してくれた恩人である。ヴェルディが『椿姫』のヴィオレッタ(原作ではマルグリット・ゴーティエ)をジュゼッピーナに、アルフレード(原作ではアルマン・デュヴァル)を自分に、そしてジェルモンをバレッツィに、それぞれなぞらえたとしても不思議ではない。有り体にいえば、ヴェルディにとっては非常に身につまされる作品であったろう。 さて、1853年3月6日にテアトロ・フェニーチェで行われた初演であるが、これが大失敗に終わったことは有名である。原因は「椿姫」こと高級娼婦のヴィオレッタ役が大変肥満しており悲恋の主人公足り得なかったことと、あとはパリの社交界の話をヴェネツィアに持ってきても聴衆が余り共感できなかったことと、そしてその生々しい距離感に慣れが必要な現代劇だったことがあげられよう。初演初日は客席からの非難の口笛で騒然としたと伝えられる。しかしそれは初日だけだった。上演を繰り返すうちに拍手は増え、客席は静かになり、哀しい恋物語に胸打たれた女性客のすすり泣きだけが聞こえたという。 いうまでもなく、現在ではヴェルディのオペラの中でもアイーダと並んで上演回数が大変多い大人気曲である。 ■内容 第1幕 前奏曲 アダージョ。ロ短調〜ホ長調。4分の4拍子。ロ短調で弦に出る冒頭の旋律は、薄いガラスのようで美しくも今にも壊れてしまいそうな音楽である。やがてホ短調で、ヴァイオリンにゆるやかな下降音型が出る。第2幕第1場のフィナーレで「わたしがあなたを愛してるくらい、あなたも私を愛していてね」と歌われるこの旋律は、〈ヴィオレッタの純愛〉を表している。優しげで人肌のぬくもりをもっているが、しかしどこまでも儚い。遠くを見つめて心の平安に憧れているような旋律である。この動機はヴァイオリンの装飾音を伴ったチェロによって引き継がれる。旋律は華やかで美しく盛り上がるが、やがてその幸せな雰囲気のまま歩みを止めてしまう。仄かな幸せをようやくつかんだのもつかの間、斃れてしまうヴィオレッタの哀しい未来を暗示している。 第1場 ヴィオレッタの客間。1850年10月。 導入部はアレグロ・ブリランティッシモ・エ・モルト・ヴィヴァーチェ。イ長調。4分の4拍子。全合奏で音楽が突然上昇音型を奏でる。一瞬静寂があって再度オーケストラが駆け上がり、夜宴の音楽へつながる。きらびやかな会場、その中にヴィオレッタが現れる。アルフレード、ガストーネ、侯爵、そしてヴィオレッタのパトロンのドゥフォール男爵が集まっている。アルフレードは初めてヴィオレッタに紹介されるが、以前からヴィオレッタを想っていたことがガストーネから伝えられる。一同は「快楽こそ人生」と歌う。 やがて料理の準備ができ、ヴィオレッタがアルフレードを促す形で有名な〈乾杯の歌〉が歌われる。アレグレット。変ロ長調。8分の3拍子。ヴィオレッタは先と同じように「快楽こそ人生」と歌うが、アルフレードは「快楽よりも真実の愛」と主張し、〈二人の愛の祝祭〉が始まる。ワルツと二重唱。アレグロ・ブリランテ。変ホ長調。4分の3拍子。二人は次第に、というよりヴィオレッタはアルフレードの真摯な愛に惹かれてゆく。やがてワルツが聞こえてきて、ヴィオレッタは一同を舞踏に誘い、「さあ参りましょう」と言った瞬間にヴィオレッタの病が起こる。蒼白のヴィオレッタ。ドゥフォール男爵はヴィオレッタと一瞬見つめ合って去る。ひとりだけ残るアルフレード。そしてヴィオレッタはアルフレードが居ることに気付き驚く。アルフレードは、じつは1年も前からヴィオレッタを慕っていたことを情熱的に歌う。アンダンティーノ、8分の3拍子ヘ長調の二重唱でヴィオレッタとの対話が始まる。愛することの苦悩と喜びを直情的に歌うアルフレード。愛の虚構の世界に生きる者として、愛することはできない、あなたは私を忘れてしまうと歌うヴィオレッタ。しかし言葉と裏腹に、二人の音楽は激しく溶け合っていく。 ここに「ガストーネが現れることで、ヴィオレッタはどうにか自分を取り戻そうと努力する。「恋の話などやめましょう」と言い出すヴィオレッタ。しかし椿の花をアルフレードに渡し、この花が色褪せるころにまた会いましょう、と約束する。欣喜雀躍して去るアルフレード。 さらに舞踏を済ませてより興が乗った一同が合流してくる。彼らはアレグロ・ヴィーヴォにて〈夜明けの合唱〉を歌う(変ロ長調、4分の4拍子)。「明日の快楽のために、休んで英気を養おう」と騒ぐ一同にひとり、今までにない違和感を覚えるヴィオレッタ。ここにおいてヴィオレッタは完全に一同とは別の人間であり、完全に局外者である。「不思議だわ!」あの方の言葉が胸に刻まれてしまった、という言葉とともに、シェーナとアリアを歌う。彼女は今までと違う自分の心の動きの原因がアルフレードだと気づく。アンダンティーノ、ヘ短調〜ヘ長調、8分の3拍子。愛し愛される歓び、今まで自分が知らなかった歓びに気づいたことを歌う。しかし休止符後のアレグロで、社交界に生きる女として、自由で快楽に浸っていなければならない、「これは馬鹿げた夢」と無理やり歌う。〈花より花へ〉のカヴァレッタ(アレグロ・ブリランテ、変イ長調、8分の6拍子)となり、いつも新しい歓びに飛んでいかなければならない、と快楽を讃える。しかしバルコニー下から聞こえるアルフレードの声。「恋は全宇宙の鼓動、神秘的で誇り高い」と歌うアルフレードに、ヴィオレッタは「ああ、恋!」と応える。抵抗のしようもない。ヴィオレッタは口では「楽しむこと、いつも自由で……」と続け、倒れ伏しながら、遂にこの虚飾の世界から訣別する決心をする。 第2幕 第1場 パリ郊外。ブージヴァールの田舎にある家。客間。1851年1月。 アレグロ・ヴィヴァーチェ。ハ長調。4分の4拍子、幾分素朴で明るい序奏で幕を開ける。アルフレードが登場し、アンダンテ、変ホ長調、4分の3拍子で「あの人のそばを離れては歓びはない、はやくも3ヶ月が過ぎ去った」と幸せいっぱいで歌う。アルフレードも、そしてこの場所には居ないヴィオレッタも魂の再生の歓びを感じている。 女中アンニーナ登場。お互いに驚くが、アルフレードがアンニーナに、彼女がここに居る理由を聞くと、ヴィオレッタが今の生活のために家財道具一切を売っていると答える。さらに驚くアルフレード。アルフレードは恥を感じつつ退場する。入れ替わりにヴィオレッタが帰ってくる。家財を売るための書類を手にしている。やはり幸せいっぱいである。男の人が訪ねてきたと知らせを受け、家具屋が家財を買い取りに来たと思い迎えに出るヴィオレッタ。 しかしあに図らんや訪ねてきた男はアルフレードの父親と名乗る。続けて「あなたに誘惑され身を滅ぼす浅はかな男の、父親だ」と述べる。ヴィオレッタは怒りをおさえながらも、自分は家財一切を売り払ってもアルフレードと一緒に暮らしたいと思っている、と述べる。ジェルモンは「ゆかしい心だ」と一応納得しながら、続けて「そのゆかしい心にもうひとつ犠牲を求めたい」と伝える。アレグロ・モデラート。変イ長調。4分の4拍子の二重唱となり、ジェルモンは、アルフレードがあなたと別れないと、自分の年頃の娘が嫁入り出来ない、と勝手極まることをいう。ヴィオレッタは、では暫くの間、辛いことですがアルフレードから遠のかないといけませんね、と譲歩するが、ジェルモンは、永久に別れてほしいと勝手極まることをいう。逆上するヴィオレッタ。ヴィヴァチッシモ、ハ短調、8分の6拍子で「どんなにひたむきな果てしない愛情がこの胸に燃えているかお分かりになりませんか!」と訴え、別れるのなら「いっそ死んだほうがまし」と歌う。しかし老獪なジェルモンは退かない。アンダンテ・ピゥットスト・モッソ、変イ長調、4分の2拍子で、男はみな浮気性なこと、愛情が倦怠に移り変わったとき、祝福されない愛情はどうなるか、語る。ヴィオレッタの気持ちが揺らいだのを見て取り、さらにジェルモンは「我が家の慰めの天使となってください」ととどめを刺す。ヴィオレッタは純粋である。そして己を殺すことができる女でもある。己の幸せを犠牲にすることを決心したヴィオレッタ。アンダンティーノ、変ホ長調、8分の6拍子で、泣きながら「美しくて清純なお嬢様にお伝え下さい、世の中に不幸のいけにえの女がいて、ただ一筋の幸せの光明が残されながら、それをあなたに差し上げて死んでいくと」と歌う。「愛の犠牲を果たしたのだと」彼女は泣く。純粋な人が、幸せを掴んでいるが故の、愛に対する自己犠牲、そしてそれに対する自己陶酔。運命が悲劇の坂を転がり始める。ジェルモンは喜んで立ち去る。 ヴィオレッタは、手を切ったはずのかつてのパトロン、ドゥフォールに手紙を書き、女中アンニーナに渡す。続けてアルフレードに置き手紙を書こうとするが、彼がまさにその時、郵便局から帰ってくる。「親父が着いたという手紙を受け取ったが、君と会えばきっと気に入る」と言う。ヴィオレッタは狼狽し、「わたしを外させて」と言いながら泣く。「何故泣くの」と問うアルフレード。「いつまでもあなたのそばに。わたしを愛してね、わたしがあなたを愛してるくらい」と抱きしめ、慌ただしく去っていく。 女中は「奥様がパリに」とあたふたしながら伝えるが、アルフレードは気にもかけない。続けて遣いの者が、ヴィオレッタに託されたという手紙を持ってきて、初めてことの重大さに気づく。別れの手紙!同時にジェルモン登場。わけもわからず父親の腕に身を任せる。ジェルモンは、アンダンテ・ピゥットスト・モッソ、変ニ長調、4分の4拍子で〈プロヴァンスの海と陸〉を歌う。田舎の美しさと、アルフレードが去ってからの自分の寂しい気持ちを歌うが、アルフレードは全く聞かない。机上のフローラからの手紙に気付き、復讐を叫びながら飛び出ていく。 第2場 フローラ邸の広間。仮装舞踏会の最中である。 フローラを中心に、社交界の常連たちが群がっている。いかにもな華美な前奏。皆が談笑するなか、アルフレードとヴィオレッタが別れたという話も出る。ジプシー女が現れ、アレグロ・モデラート、ホ短調、4分の4拍子で「皆さんの未来を占います」と舞踏を行う。続けて、マタドールに扮したガストーネを先頭に、闘牛士集団が現れ、スペインの闘牛士の合唱となる。アレグロ・アッサイ・ヴィーヴォ、ト短調、8分の3拍子。 そこにやってくるアルフレード。フローラはヴィオレッタの行方を聞くが、勿論彼が知るわけもない。ガストーネとアルフレードが賭博に興じている中、ヴィオレッタがドゥフォールの腕をとって現れる。アルフレードを見てひるむヴィオレッタ。アルフレードは、ドゥフォールが賭博に加わると自分の命を賭け、そして勝負に勝ち続ける。やがて食事の合図で一同が去る。二人になったアルフレードとヴィオレッタ。「ドゥフォールだったのか?」と問うアルフレードに、ヴィオレッタは心ならずも「そうです」と答える。ドゥフォールを愛している、とも。逆上して一同を呼ぶアルフレード。わらわらと集まってきた一同に、「この女はわたしのために持ち物を手放したが、いま弁済するのだ、証人になってくれ」と言いつつ賭博で勝ったカネをヴィオレッタの足元に投げつける。気を失うヴィオレッタ。ヴィオレッタを衆人のなかで辱めたことに怒る一同。そこに息子を迎えにきたジェルモンが現れる。ジェルモンは正しくも、怒りの余り婦人の心を傷つけるものは侮蔑に値する、と息子を叱責する。ヴィオレッタは生気を取り戻し、「あなたの軽蔑を受けてまでも愛の証を立てた、いつか分かってくれる。。」と歌う。ジェルモンは息子を連れて行く。 第3幕 前奏曲 アンダンテ、ハ短調、4分の4拍子。冒頭は第1幕前奏曲と同じ旋律を短二度上方転調しただけのものだが、第1幕のそれよりも息苦しく、そして色褪せている。この旋律は前のように〈ヴィオレッタの純愛の動機〉には切り替わらず、重苦しい雰囲気のまま低弦のピッツィカートを伴って搖動する。ただ純粋ななにものかが疲れ切って徘徊しているような雰囲気をもっている。 第1場 ヴィオレッタの粗末な寝室。1851年2月。カーニヴァル当日。雪模様である。 ヴィオレッタは床に伏し、アンニーナは暖炉のそばで居眠りしている。目を覚まし、水をいっぱい所望するヴィオレッタ。医者のグランヴィルが診察にやってくる。グランヴィルは本人には「回復は遠くない」と述べるが、帰り掛けに二人になったアンニーナに対しては「結核で、もう長くない」と伝える。グランヴィルは退場する。 戻ったアンニーナ、ヴィオレッタと今日開催される謝肉祭について話す。ヴィオレッタは小銭の入った小箱を差し出し、「貧しい人にあげて」とアンニーナに託す。細々と暮らす病身、小箱には幾ばくも入っていない。自らも貧しい中、入っている小銭を半分に分けて、半分を貧しい人への喜捨としてアンニーナに渡す。それを持ってアンニーナ退場。 一人になったヴィオレッタ、懐から一通の手紙を出して読む。ジェルモンからの手紙である。アルフレードはドゥフォールと決闘をし、傷つけたが、ドゥフォールの負傷は快方に向かっていること、そして息子アルフレードは今、外国に居るが、ヴィオレッタがアルフレードの将来を思って身を引いたことを知らせたこと、アルフレードはお詫びのためにヴィオレッタのもとを訪れるだろうこと、が書いてある。「遅いわ!」と思わずヴィオレッタは叫ぶ。続けてアリア〈過ぎ去りし日々〉(アンダンテ・モッソ、イ短調、8分の6拍子)を歌う。道を誤った女(Della traviata)に神の許しを請う。外では仮装行列の喧騒。 アンニーナが駆け込んでくる。「落ち着いていると約束して下さいます?」とアンニーナ。ええと答えるヴィオレッタ。アンニーナは、アルフレードが来たことを知らせる。駆け込んできてヴィオレッタと抱き合うアルフレード。喜ぶヴィオレッタ。アルフレードは心から詫びる。戻ってきてくれることは分かっていましたと答えるヴィオレッタ。「二人の間は人間であれ悪魔であれ、裂くことはできない」と歌うが、ヴィオレッタはそのまま倒れる。抱き起こして、二人で何処か遠くで暮らそうと歌うアルフレード。二重唱、アンダンテ・モッソ、変イ長調、8分の3拍子。「苦しかった日々も報われ、未来が微笑んでいるわ」と歌うヴィオレッタ。愛する人とパリを離れてどこか静かなところで暮らす、ヴィオレッタにとってはこんなちっぽけで素朴なことが至上の歓び、今まで待ち続けてついぞ叶わなかったことなのである。教会へ、あなたのお帰りを感謝しにいきましょうとヴィオレッタ。「道を踏み外した女 La Traviata 」は実は敬虔なカソリックである。アレグロ、ハ長調、4分の4拍子。力を振り絞り、再び立ち上がるヴィオレッタ。しかし再び倒れるヴィオレッタ。ただ戸惑い、安静にさせようとするアルフレードに対し「わたしは外に出たいの!」と主張するヴィオレッタ。アンニーナに晴着を求めるが、その着物を着ることすらできない。急いで医者を呼びにやるアルフレード。 やがて医者だけではなく、アルフレードの父親ジェルモンもやってくる。自分の行いを深く悔悟し、そしてヴィオレッタを「娘」として抱きしめるために。 しかし衰弱しきったヴィオレッタ、横たわり、アルフレードらに見守られながら「愛する人々に囲まれて死んでいくのは幸せ」と告げる。そして化粧台からロケットを取り出し、アルフレードに差し出す。アンダンテ・ソステヌート、変ニ長調、4分の3拍子。「アルフレード、もし花の盛りのつつましい方にめぐり逢い愛されたら、その方と一緒になってください。その方にこの絵姿をあげて下さい、この贈り物は、天上で天使たちに囲まれて、その方のために、あなたのために祈る者からのだと」。 彼女は、「不思議だわ、苦しみの発作が止まった」と叫び、ふわりと立ち上がるがすぐに崩れ落ち、こと切れる。すべての彼女にかかわる人々の重い悔恨を示すように、オーケストラは激しく鳴り、この三幕の悲劇に幕を下ろす。 ■付記 第1幕前奏曲の、透明感溢れる〈ヴィオレッタの純愛のテーマ〉、第2幕での、自ら身を引く決心をしたヴィオレッタ、第3幕前奏曲の苦しみの表現、そしてアリア〈過ぎ去りし日々〉を歌うヴィオレッタ、いずれも涙なしでは見られない。ベタな、といってしまってもいい筋をもつ悲恋物語は、ヴェルディ・トーンをまとって崇高に美しく、そしていいようもなく哀しい。 (up: 2015.2.19 ) |
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