【DVD】
シャイー指揮VPOによるリゴレット。マントヴァ公爵をパヴァロッティが演じている。全くはまり役。ジルダはエディタ・グルベローヴァ。清楚さを懸命に出しているが少し骨太。ヴィクセルがリゴレットとモンテローネを二役こなしている。演奏はバランスのとれたシャイーらしい指揮。下記ボローニャのものよりは端正で低音に少し力がある。またマントヴァまでロケに行って撮影したというポネル演出の映像も素晴らしい。映像に関しては、エディタの体調が少し悪そうに見えるのだけが欠点というかなんか心配になる。ヴェルディ:歌劇《リゴレット》 [DVD] はトールサイズだが品切れの模様。



上記DVDと同じシャイー指揮だが、オケはボローニャ歌劇場管弦楽団、配役もパヴァロッティ以外はすべて違う。オケバランスとしては、より中音が強調されているこちらのほうがシャイーの理想に近いと思う。悪くいえば演奏が軽い。他の配役としては、レオ・ヌッチがリゴレット、ジューン・アンダーソンのジルダ。日本語版は ヴェルディ/歌劇「リゴレット」全曲 だが現在品切れ中。


ジュリーニ指揮VPOによる演奏。マントヴァ公爵はドミンゴ、リゴレットはカプッチッリ、ジルダをコトルバスが演じている。ジュリーニの作る内省的な音を背景に、壮年期のカプッチッリが丁寧に、性格的にリゴレットを歌う。コトルバスは可憐で清純なジルダを十全に表現している。ムジークフェラインザールでセッション録音したもので、音質もいい。上記リンクの国内盤は品切れであるが、海外盤 Rigoletto は売っているようだ。
 ▽ Giuseppe Verdi
RIGOLETTO
歌劇《リゴレット》



■作曲 1851年
■初演 1851.3.11 ヴェネツィア、フェニーチェ座
      ヴェルディの指揮による
■台本 フランチェスコ・マリア・ピアーヴェによる
■言語 イタリア語
■時代 16世紀
■場所 北イタリア、マントヴァ

《楽器編成》
Fr. 2 Ob. 2 Cl. 2, BassCl. Fg. 2
Hr. 4 Tromp. 2 Tromb. 3 Tuba Tim. 2
1st Violin 16 2nd Violin 16 Viola 12 Cello 12 C.bass 8
Banda Bell 2


《おもな登場人物》
マントヴァ公爵 (テノール) 世襲のマントヴァ領主。とんでもない女好き。
リゴレット (バリトン) マントヴァ公爵に仕える道化。醜いせむしとされている。毒舌と廷臣に対する茶化しで公のお気に入り。
ジルダ (ソプラノ) リゴレットが隠して育てている娘。母親とは生後すぐに死別。16歳。父親の職業も世の苦悩も知らぬ清らかな乙女。
スパラフチーレ (バス) 殺し屋。ブルゴーニュ生まれ。のちリゴレットに金で雇われる。居酒屋に出入りしている。
マッダレーナ (アルト) スパラフチーレの妹。踊り子。恐らくジプシー。淫蕩な美人。時に兄の殺し屋稼業の手伝いをする。
モンテローネ (バリトン) 公の廷臣。娘を公爵に慰み者にされ、公を非難したので獄に繋がれている。
チェプラーノ伯爵 (バス) 公の廷臣。いつもリゴレットに茶化されるので復讐を考えているが、リゴレットは公のお気に入りなのでなかなか手出しができない。

なお、台本の原作は「概要」にも記載したようにヴィクトル・ユゴー『王様はお楽しみ』。
同じく記するように、オーストリア官憲の検閲にて、舞台ほかが以下のように変改されている。
【舞台の改変】
16世紀のパリ⇒16世紀マントヴァ
【人名の改変】
フランソワT世 ⇒ マントヴァ公爵
トリブレ ⇒ トリボレット ⇒ リゴレット
ブランシュ ⇒ ジルダ
サルタバディル ⇒ スパラフチーレ
クレマン・マロー ⇒ マルッロ
ド・サン=ヴァリエ ⇒ モンテローネ
ベルラド ⇒ ジョヴァンナ


■概要

 ヴェルディ第16作目の歌劇にして、ヴェルディ中期作品の傑作である。
 
 傑作である理由はいろいろあるが、やはり主人公に「せむしの道化」を据えたことが大きいだろう。当時は今のような、所謂芸術表現といえばなんでもありの時代と違う。ヴェリスモ・オペラといえども、社会のアウトサイダーをタイトルロールにもってくるというのはやはり冒険だったといえるだろう。道化が主人公ということはその主人たる公人が登場し、かつ道化側からの視点で物語が進行するので、体制批判にもつながりやすいのは明白である。
 果たして、この台本――元々は大作家ヴィクトル・ユゴーによる『王様はお楽しみ』に範をとる――は、当局の目にとまって大幅な変更命令を出される。その際、他でもなくこの台本にこだわったのはヴェルディである。最終的には登場人物の名前を変えることで落ち着き、場所もパリからマントヴァに変更された。
 ヴェルディ自身、この《リゴレット》を書いている際は「楽しかった」と振り返っている。この《リゴレット》に特徴的なのは、彼の中期作品に見られる、社会の辺縁に居る人間へのヴェルディの真摯な眼差し――《トロヴァトーレ》はジプシー、《トラヴィアータ》は高級娼婦――もさることながら、リゴレットの中にある、道化という立場であるからこその一段の娘への愛情と心遣いに対する同感、そして運命により弾き出されたときにもどこかに残る滑稽さ、それらが十全に表現されていることである。

 主人公リゴレットは人を笑わせるために存在する道化。皮肉と毒舌で宮廷の人間から忌み嫌われている。周囲の人間から絶えず莫迦にされ軽視され後ろ指をさされる存在、彼の公的プロフェッショナルな意識はまさに「笑われること」にある。そして、第1幕の彼自身の独白に見られるように、彼はじっさい大変繊細な人間である。舌先で「人を殺す」生業を恥じてさえいる。「しかし自分にはこれしかない」。自らを殺しながら、マントヴァ公爵に道化として仕える彼、リゴレット。笑われる存在である彼の尊厳は実は、隠して大切に育てている娘ジルダに委ねられている。むしろ、自らの尊厳をそこに隠しているといってもいい。だからこそ道化として矢をいくら受けても平然としていられるわけである。しかし道化は最後に、隠していた自らの尊厳すら失ってしまう。第3幕フィナーレ。船の上でひとりぼっちになるリゴレット。軽薄な「女心の歌」を呑気に岸辺で歌う公爵。手元にあるジルダの死体。自らの尊厳の死骸である。
 こんな寂しいエンディングは、いくら悲劇だといえどもそうそうない。しかし人生というのはしばしばそういうものである。自分だけを荒野に弾き飛ばして、地球はいつものようにゆっくりと回っている。緩やかに回転する世間を、その外側から呆然と眺める孤独。ヴェルディは人生経験上、そのことをよく知っている。

 初演は1851年3月11日。大成功をおさめた。

■内容

 前奏曲
 第1幕、モンテローネ伯爵の「呪いのテーマ」がハ短調で、極めて短く引用される。続けて減7和音。運命が底止まりするような、打撃的な幕開けである。35小節しかないこの前奏曲は、何事か尋常ではないことの幕開けの予感をさせる、効果的なものである。

 第1幕
 第1場 マントヴァ公爵の宮殿。
 前奏曲からいきなり温度が変わって変イ長調でバンダが飛び跳ねるような旋律を奏する。宴が繰り広げられている。公爵が廷臣ボルサとともに出てくる。いつも裏通りに帰っていくある若い女と教会で知り合いになったが、恋の思いを遂げたいと軽快に歌う。今ここに集う女も艶やかですな、とボルサ。チェプラーノ伯爵の妻が好みだ、と公爵。続けて公爵、イ長調、8分の6拍子のバラータにて、「あれもこれも」という如何に自分が女が好きであるかという歌を歌う。チェプラーノ伯爵の妻に公爵が、つれない人だ、もう帰られるのか?と尋ねる。夫とともにチェプラーノに帰ります、と述べるが、公爵は「あなたのような人はここに居てほしい」と歌う。伯爵夫人、伯爵とともに去る。チェプラーノ伯爵とばったり出会ったリゴレットがチェプラーノの軽口を歌う。いっぽう、廷臣マルッロが出てきて、他の臣たちに「大変だ!リゴレットが愛人を囲っているようだ」と笑いながら伝える。 公爵はリゴレットとチェプラーノと一緒に出てくる。リゴレットは先程の続きでチェプラーノに軽口をたたきながら、公爵に対し「チェプラーノの女房を手に入れるのに旦那が邪魔になるなら旦那の首をはねればいいではないですか」と語る。怒るチェプラーノ。チェプラーノは他の廷臣たちと一緒になって、今夜腹いせだ、武器を持って集まれと伝える。突然今までの雰囲気と打って変わってモンテローネ伯爵登場。モンテローネは娘を公爵に犯され、抗議して獄に繋がれている。「この無礼講の宴をかき乱すため叫ぶぞ!」と尋常一様ではない。リゴレットが進み出て、モンテローネを小馬鹿にしたように笑いの種にする。怒るモンテローネ。公爵とリゴレットに呪いの言葉をぶつけ、さらにリゴレットに対し「父親の苦悩を笑う汝こそ呪われよ!」と叫ぶ。リゴレットは内心、大変に恐れる。他の廷臣たちと公爵はむしろ宴を台無しにしたモンテローネを怒り返しながら退場、リゴレットは恐れ慄きながら退場する。
 第2場 裏路地。
 暗い小路をひとり、リゴレットが帰宅している。「呪いの動機」に乗せて「あの老人、おれを呪った!」と独白。後ろから異様な風体でスパラフチーレ登場。リゴレットを呼び止める。追い剥ぎか?と驚くリゴレット。「恋敵を消しますよ」とスパラフチーレ。安い殺し屋である。どうやって殺るとかと問うリゴレットに、あけっぴろげに殺り方を語るスパラフチーレ。今は用がない、と告げるが、続いて依頼するときはどのようにすればいいのかと問うリゴレット。何か予感めいたものがあるらしい。夜ならいつもここにいると述べるスパラフチーレ。二人は別れる。スパラフチーレの後ろ姿を見ながら、変幻自在のシェーナで「あいつは剣で、おれは舌で」人を殺す、と歌うリゴレット。続けて、道化はいついかなる場合でも公爵を笑わさねばならない、畜生、と自分の運命をのろう。突然「呪いの動機」により音楽が中断され、モンテローネの呪いの言葉を思い出す。不幸がやってくるのか?とまた恐れるが、しかし自宅に到着し、中庭に入ると音楽が打って変わってハ長調で明るくなる。彼の娘ジルダが家から現れる。嬉しそうに「お前だけがわしの幸せだ」というリゴレット。「なんて優しい!」とジルダ。幸せな家族の形だが、続けてのリゴレットの台詞で、ジルダはリゴレットの名前も仕事も知らず、母親のことも知らず、既にその母親は亡くなっているのが了解される。家の小間使いジョヴァンナに、誰も怪しい奴は来てないか?ジルダから目を離すでないぞ!としつこいくらい言うリゴレット。いっぽうリゴレット家の中庭。密かにジョヴァンナに財布をやって、今まさに庭木の陰に隠れている公爵。ジルダと今日こそ逢引をするつもりである。リゴレットと話をしているジルダを見て、「リゴレットの娘か!」と気づく。リゴレット、「外で足音がする」と退場する。ジルダは独り残されるが、変ロ長調の穏やかな旋律で、恋に恋する気持ちを歌う。喜び勇んで公爵登場、ジルダに対し、自分に「あなたを愛します、といってください」と迫る。公爵に名前を聞くジルダに「グアティエル・マルデ、貧しい学生です」と告げる。二人は幸せ一杯だが突然ジョヴァンナが、「誰か家にきます!足音が」と急を告げる。ジルダと公爵で、変ニ長調、さようならの二重唱を情熱的に歌う。公爵、後ろ髪を引かれながら退場。一方塀の外、マルッロ、チェプラーノ、ボルサなど廷臣たちが覆面をして道路からリゴレット邸を見ている。家に戻ってきたリゴレットとマルッロ、鉢合わせる。驚くリゴレットに、「隣のチェプラーノ邸から女房を奪うのだ」と嘘をつく。乗っかるリゴレット。ひとりだけリゴレットが覆面をしていないので、ということで仮面と目隠しをつけてもらう。その隙に廷臣たち、ジルダを奪って逃げ去る。ジルダの悲鳴。やがて目隠しを外したリゴレット、ジルダのスカーフが落ちているのを見て、娘を奪われたことに気付き、「ああ、呪いだ!」と気絶する。

 第2幕
 第1場 公爵邸の接見室。
 ニ短調で急迫した序奏。すぐに公爵のシェーナが続く。あの女、つまりジルダが奪われてしまった!とうろたえて歌う公爵。その前にドヤドヤとマルッロら廷臣が現れ、何事かと尋ねる公爵に「リゴレットから愛人を盗みました!」と告げる。仔細告げる廷臣たちを前に、公爵「あの女だ!」と驚く。どこに居る?と尋ねる公爵、「ここへ!」と言う廷臣たちを前に、あわただしくジルダの居る別室へ行くていで退場。入れ替わりにリゴレット登場。しかしリゴレットは道化、怒りに任せてアリアを歌うことは許されない。ホ短調、ぎくしゃくしたスタッカート気味のリズムに乗せて、ハミングで出てこざるを得ないリゴレット。娘を隠されたことを知っていて、おどけながらマルッロらに探りを入れるが、廷臣たちは冷たい表情のまま何も答えない。遂に「わしは娘を探したいのだ!」と叫ぶリゴレット。「娘!?」と一同。有名なアリア「卑劣な廷臣たちめ」が歌われる。冒頭はアンダンテのハ短調で怒りを表現し、続いて変ニ長調でマルッロなどに哀れみを乞う。劇的で強烈な表現力をもつアリアで、彼女が如何に大事な娘かということを伝えるが、いつもリゴレットに嘲笑されている廷臣たちはやはり答えない。そこで突然泣いて登場するジルダ。ことの深刻さに廷臣たちを人払いするリゴレット。ジルダは公爵とのなれそめを語る。娘が汚されたことに心底悲しむ。窓の下から、モンテローネが下獄している声が聞こえる。やはり減7の「呪いの動機」が響く。しかし、自分の呪いも公爵には効果がない、と言いながら引かれていくモンテローネ。モンテローネに対し、いや、仇はうてますぞ、とリゴレット。続けてリゴレットはアレグロ、変イ長調で、復讐のアリアを歌う。それは「彼を許してあげてほしい」と嘆願するジルダとの二重唱となり、やがて両人退場する。

 第3幕
 第1場 路地の居酒屋。
 路上にジルダとリゴレット。居酒屋の中にスパラフチーレ。スパラフチーレは周囲をまるで気にかけず、革帯の手入れをしている。リゴレットに、あの人つまり公爵はわたしを愛していますと言うジルダ。恋に恋する乙女の年頃である。それを聞いて如何にも残念そうなリゴレットは、事実を見極めよ、として、公爵が変装して居酒屋に入るところを見せる。別の女と逢引をするためにやってきたのである。居酒屋で別部屋を借りて入った公爵はここでいとも有名な「女心の歌」を歌う。スパラフチーレの妹マッダレーナがやってきて、公爵は彼女を口説く。様子を見ているリゴレットとジルダ。ジルダは軽薄な公爵に落胆する。ここで有名な四重唱となるが、まずは公爵がホ長調アレグロで歌い出し、続いてマッダレーナ、ジルダ、リゴレットが加わってゆく。4人それぞれの性格描写が見事な四重唱であり、公はあいも変わらずマッダレーナを口説く雰囲気、マッダレーナは百戦錬磨の女、すべて分かっていながら艶っぽく絡み、ジルダは清らかながら公爵の裏切りを哀しみ、リゴレットは復讐を心に決めている。そののちリゴレット、ジルダを先にヴェローナへ向かわせ、スパラフチーレに公爵殺害を依頼する。いっぽう酒を呑んでひとり居酒屋に眠ってしまった公爵。いっぽう公爵恋しさにヴェローナに向かえず、ひとり帰ってきてしまったジルダ。スパラフチーレとマッダレーナのやりとりを外で聞いている。スパラフチーレは眠っている公爵を殺しにかかるが、マッダレーナが「この人を好きになっちまった」として兄スパラフチーレに対し、殺害をとりやめるよう説得を始める。既にリゴレットから黄金20枚で請け負っているスパラフチーレ、逡巡する。やがて思いついたスパラフチーレ、夜中になる前にここに誰かやってきたら、そいつを殺してリゴレットに死体を渡そう、と決める。ただ、外は嵐。こんな夜中に誰が通るかねとマッダレーナ。それを聞いていたジルダは、公爵のために命を差し出したい、と独言し、ドアを叩く。嵐および急を告げる表現が管弦楽により劇的に行われる。短刀を密かに構えたスパラフチーレがドアを開ける。「あたしが救おうとする人が、幸福でありますように」と言いながらスパラフチーレに向かっていくジルダ。ドアが閉まって暗転する。やがて嵐は鎮まり、真夜中にやってきたリゴレット、スパラフチーレから死体が入っているという袋を受け取る。死体はもっと遠くで、深いところで捨てろと忠告するスパラフチーレに残りの約束報酬を渡し、袋をひきずりながらスパラフチーレの居酒屋を去る。離れで死体袋を捨てようと川まで持ってきたリゴレット、復讐成就に喜びの声を上げるが、袋の中身を見ようか見まいか逡巡する。その時、川の対岸から聞こえてくる「女心の歌」。公爵だ!ではこの袋の中身は?急に恐ろしくなったリゴレット、急いで死体袋を開く。瀕死のジルダが出てきて驚愕恐怖するリゴレット。どうしたのか尋ねるリゴレットに、「ここを刺されました」と心臓を指さすジルダ。ジルダは、あの人の身代わりで死んでいくということを、清らかな旋律にのせて歌う。狼狽の極みのリゴレット。ジルダはアンダンテ、変ニ長調にて「天から、お母さんのそばで、お父さんのために祈ります」と、いとも清らかに歌う。「あの人を許して」と歌いながら、遂に絶命するジルダ。リゴレットは「ああ、あの呪いだ!」と髪をかきむしりながらジルダの死体の上に倒れる。


■付記

 台本も、劇的な音楽も、また道化の表現も、素晴らしい、素晴らしい作品。全3幕を通じて減7和音が響き、それがどの状況でもリゴレットの心に、また我々の心に引っ掛かってくる。
 しかしそもそもこの暗鬱で、足が掬われるようで、しかしどこか間の抜けたような減7は、リゴレットにも、また我々にも常に鳴るものなのかもしれぬ。リゴレットは道化という立場ゆえに、嘲笑されていることがみやすい。しかし我々とて、生きていくうえにおいて減7の和音が響くことは、それこそ毎日のようにあるのではあるまいか。
 それにしても、リゴレットの、ジルダに対する全幕を通じた愛情表現、ジルダの清らかな表現、第1幕の、ジルダに対するリゴレットの "addio" と公爵の "addio" の対比、リゴレットの気持ちの変化の音色表現、呪いの動機に減7を選んだ判断、第2幕冒頭の、公爵の如何にも軽薄な躁鬱変化の表現、第3幕の嵐と四重唱、いずれもすばらしい。

 なお、《ナブッコ》などと同じように、別立ての小規模アンサンブル「バンダ」が効果的に使われている。

(up: 2015.1.1)
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