コンテンツ > 音楽 > 作曲家 > ワーグナー > パルジファル | ||||||||||||||||||||||||||
まず最初に挙げられるべき納得の名演。ゆるやかなテンポから紡ぎだされる神聖祝典のトーン。歴史的録音だが音質もステレオで非常によい。ハンス・ホッターのグルネマンツがとても好きである。 |
▽ Richard Wagner
■作曲 1877〜82年 ■初演 1882.7.26 バイロイト祝祭劇場 ヘルマン・レヴィ指揮による ■台本 リヒャルト・ワーグナーによる ■言語 ドイツ語 ■時代 中世、10世紀前後 ■場所 スペイン、モンサルヴァート城 |
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《楽器編成》
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■概要 「歌劇」でも「楽劇」でもなく、「舞台神聖祝典劇」とされたこの作品は、他のワーグナー作品と比較しても寓話性が非常に強く、順逆自在の老成しきった音楽と相俟って、緊張感の強い、しかし浮遊感溢れる作品となっている。 この作品が完成した時、ワーグナーは69歳。1877年には心臓発作など体調不良が断続的に現れており、ワーグナー自身もこの作品が最後のものになるだろうことを予感していたと思われる。医師の勧めもあり、彼はイタリア・ヴェネツィアにてこの作品の大半を作曲する。 初演には、リストをはじめとして、ブルックナー、サン=サーンス、ゴーティエ、フーゴー・ヴォルフ、リヒャルト・シュトラウス、フェリックス・ヴァインガルトナーなど、錚々たる芸術家が集まった。但し、それまで湯水の如くワーグナーに金を与え、飼い続けてきたバイエルン元国王・ヴィルヘルムU世は来席しなかった。その頃王は既に妄想疾を含めた病気に苛まれており、また人間嫌いが亢進していた。ちなみに初演には「反ワーグナーの首魁」エドゥアルト・ハンスリックもやってきていたが、客席の彼は、大作《パルジファル》の威容に完全に圧倒されていた、という証言がある。初演はいうまでもなく、大成功をおさめた。 ■内容 背景 聖杯の地の最初の王、ティトゥレル、かつて天使たちから、十字架上のキリストのからだを刺した槍と、その血を受けた杯を授かった。聖槍と聖杯、騎士たちにとっては力と平和の象徴である。しかし、平和は危機にさらされる。クリングゾールが騎士の一人に名を連ねたのである。彼は聖人になる野望を抱いていたが、いっぽう自らの罪への衝動を断つことが出来ず、かえって人道をふみはずし、ついにはティトゥレルによって騎士を除名され、追放の憂き目に晒される。クリングゾールは、聖杯の王国の崩壊をもくろむようになる。彼はみずから暗黒の魔法の王国をうちたて、信仰の王国に対抗、また、彼の住む地を官能の魔法の園と化し、その魅惑によって騎士たちを誘惑、純潔な誓いを破らせようとする。 新しく聖杯の地の統率者となった、ティトゥレルの息子であるアンフォルタスは、これを撃退すべくクリングゾールと戦ったが、「恐るべき美貌の女(クンドリー)」に抱擁されてその使命を忘れ、哄笑とともにアンフォルタスを刺した。かくしてアンフォルタスは傷を負い、その傷は癒えることがなかった。 第1幕 アンフォルタスが聖杯の地の湖へ運ばれてくる。清水で痛みを和らげるため、彼は毎日この水際へやってきていた。グルネマンツと二人の小姓はその一行の人々へ挨拶する。そこにはクンドリーもいた。彼女は、アンフォルタスに塗るための傷癒えの香油をたずさえている。彼女は草むらに身を隠すが、小姓たちは彼女を大いにののしる。グルネマンツは、クンドリーがいましている行いは善行であるとして小姓をたしなめる。 そこへひとりの若者が現れて、神聖な白鳥へ傷を負わせて周囲の憤りを買う。しかしグルネマンツは、この若者が「秘密の約束」の「彼」であると予感する。若者は善悪を知らず、また名前も出生もしらぬ「タブラ・ラサ」状態、母親の名前のみをただ覚えている。その名を「ヘルツェライデ」(心痛)といった。しかし、その母親は、息子の出奔に胸を痛めて死んでしまっている、ということを、かのクンドリーによって明らかにされる。 グルネマンツは若者を聖杯の城へと案内した。騎士たちは既に集結してい、聖杯の被いをはずし儀式の準備に余念がない。アンフォルタスは自分のみが罪人であると感じ、儀式を執り行うのに自分は相応しくないと自責する。しかし神の慈悲によっていまだ命を保っている彼の父、ティトゥレルの声が、儀式を執り行うよう命ずる。はじめはただ嘆き悲しみ、聖杯の儀式を拒んでいたアンフォルタスも、やがてその大任を果たす。若者は儀式次第を驚きをもって見守る。ただし、一部の人々が期待しているような、聖杯への開眼の様子はまったくない。グルネマンツは彼の愚かさに落胆し、彼を聖杯の城から追い出す。 第2幕 魔法の城のなか、クリングゾールは魔法の鏡を見つつ、若者が近づいてくるのを知る。若者がパルジファルであることを認め、彼の使命に感づき、この愚かな若者を駆逐する必要を直感する。他の聖杯の騎士たちと同様、パルジファルも、クンドリの誘惑に絡め取られることを、クリングゾールは信じた。クンドリはかつて、十字架を背負ったキリストを嘲笑った女である。そのため、彼女は愛のために死ぬことで罪を購わずにはならない女となり、しかしそれを果たせずにいた。すなわち、罪を悔いるものでありつつ、そのために誘惑するものであらざるを得ないという存在となり、時空を超えて世界をさまよい続けていた。彼女は自分の意志に反し、クリングゾールの命ずるがまま、誘惑者として登場する。パルジファルが魔法の園に足を踏み入れると、そこには美女の一群がまちかまえており、彼を取り囲んだ。これら誘惑を彼がはね除けようとしたとき、クンドリの声がする。「パルジファル、待って」。彼は自分が、パルジファルという名前であることを思い出す。同時に、幼少の頃の記憶も回復する。クンドリは、ヘルツェライデの生涯と死について語る。パルジファルは苦痛を覚え、罪の意識に目覚める。クンドリは、パルジファルに「はじめての愛の口づけ」をする。それと同時に自らも、愛の救済を求める。この口づけによってパルジファルは完全に目覚め、自らの使命を理解する。またアンフォルタスの傷の痛みをも同感したのである。彼はクンドリをはね除けようとする。彼女は自分の運命の秘密を彼にうちあける。しかし、クンドリは求愛を拒絶され、怒りに狂う女と化す。「この世のすべての道をさまよいつづけるがいい」。彼女の助けを呼ぶ声にクリングゾールが姿を現し、聖槍をパルジファルめがけて投げる。しかし槍はパルジファルの頭上でぴたりと止まった。パルジファルはその槍を手にし、十字を切る。すると百花繚乱であった魔法の庭は、みるみるうちに不毛の荒野となり、クリングゾールも姿を消す。クンドリは悲鳴を上げてその場に倒れ込む。 第3幕 聖金曜日の朝。パルジファルはクンドリの呪いによって世界をさまよい続けていたが、放浪がいよいよ終わる。彼は黒い鎧を身に纏い、聖杯の森へと足を踏み入れた。そこで彼は、既に老境へ至っていたグルネマンツと対面する。グルネマンツは今し方、まるで死人の如く横たわっていたクンドリを呼び起こし、救命したばかりであった。彼女は、自分が聖杯の国に持ち込んだ悪を、再び善とするべく、ただ力を貸したいと望む。いっぽう、グルネマンツは、聖槍と共にやってきたパルジファルが、かつて白鳥を傷つけ追放された愚かな若者であったことに今更ながら気付いて驚く。 神の恩寵に満たされたこの日の朝、すべてのものが以前と違ってみえた。自然は再び息を吹き返し、クンドリも次第に柔和な表情に変わりつつある。彼女はパルジファルから洗礼を受ける。クンドリの、罪を悔い改める泣き声が響く。グルネマンツはパルジファルの頭を洗い清め、聖杯の王の名誉を与える。アンフォルタスが神聖な儀式の執行を拒否する様になって以来、求心力は次第に弱まり、ついにティトゥレルも、まるで普通の人間のように死んでしまった。つまり騎士たちにとっては、パルジファルがやって来たことによって、危機から救われたということであった。グルネマンツはクンドリとパルジファルを聖杯の城へと導き、パルジファルの初めての聖務が行われる。アンフォルタスの罪は消え去り、槍が体に触れると、たちまちその傷は癒えた。 Hoechsten Heiles Wunder ! (至高の救済をもたらす奇蹟よ!) Erloesung dem Erloeser ! (救いをもたらす者に救いを!) 少年や騎士たちが合唱する中、クンドリは光り輝く聖杯を見つめる。彼女の罪は赦され、そして、静かに息を引き取る。 ■付記 何故「救いが必要な者に救いを!」ではなく「》救いをもたらす者に《救いを!」なのだろうか。 (up: 2008.11.25) |
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