ホルライザー指揮シュターツカペレ・ドレスデンの演奏。リエンツィをルネ・コロが演じている。実に英雄的、ヒーロータイプ、典型的なヘルデンテノールだ。ホルライザーとSKDの演奏は、ところどころ微妙にほぐれるところがあるが、そのあたりが逆に味である。この作品は金管色がどぎついところがたくさんあるだけに、SKDのバランスがとれた音、ホルライザーの洗練され落ち着いたドライヴはじつに好ましい。
なお、以下のお買い得ボックスを購入してもホルライザー版《リエンツィ》が入っている。

 ▽ Richard Wagner
RIENZI - der Letzte der Tribunen
歌劇《リエンツィ - 最後の護民官》



■作曲 1838〜40年
■初演 1842.10.20 ドレスデン ザクセン王室宮廷劇場
      カール・ゴットリープ・ライシガー指揮による
■台本 リヒャルト・ワーグナーによる
■言語 ドイツ語
■時代 中世、14世紀半ば
■場所 イタリア ローマ

《楽器編成》
Fr. 2 Ob. 2 Cl. 2, BassCl. Fg. 3, CtFg.
Hr. 4 Tromp. 4 Tromb. 3 Tuba Tim.
1st Violin 14 2nd Violin 14 Viola 12 Cello 12 C.bass 8
Symbal Tambline Tenor Drum Triangle Harp
Bass Drum Snair Drum Tam Tam Banda


《おもな登場人物》
リエンツィ (テノール) 教皇の公証人。のち民衆に推されて護民官となる。
イレーネ (ソプラノ) リエンツィの妹。
アドリアーノ (メッゾ・ソプラノ) コロンナの子息。のちイレーネと恋仲になる。リエンツィの友人。
オルシーニ (バリトン) オルシーニ家の当主。リエンツィ暗殺計画に加わる。
ライモンド (バス) 教皇の特使。
ステファーノ・コロンナ (バス) コロンナ家当主。リエンツィ暗殺計画をたてる貴族のひとり。



■概要

 《妖精》、《恋愛禁制》に続くワーグナー第3作目のオペラ。
 当時のワーグナーは、のちの放蕩貴族のような生活からは考えられぬような生活苦にあえいでいた。とはいっても1836年からケーニヒスベルクの常任指揮者を務めており、定期的な収入はあったようだが、たんに入りより出のほうが多かったということではあろう。彼の生涯に常なることではあるが、この時代のワーグナーも既に身の程をわきまえぬほどの借金を背負っていた。

 台本は1838年にリガで、そして作曲は1840年にパリで完成した。当時在住していたフランスでの初演を志向したが果たせず、やむなくドレスデンの歌劇場に総譜をもっていったら採用された。1841年6月である。ワーグナーは1842年の4月、余りいい思い出のないパリを後にして既にドレスデンに戻っており、この《リエンツィ》の上演に向けてその練習に心血を注いだ。
 そして1842年10月20日。ワーグナーにとって運命の日である。
 まだ29歳の若き指揮者が作り上げたこの長大な(6時間を要する)オペラの初演は、ドレスデン市民に熱狂的に迎えられた。理由は幾つかあるだろうが、ドレスデンでの革命の気運の高まりと、民衆のちからを背景に立ち上がる護民官リエンツィの姿が重なったこと、そして何より、若きワーグナーの強烈で鮮やかな管弦楽法によるところが大きいだろう。結果的に、このオペラはワーグナーの生涯のなかでも最も成功したものの一つとなった。

■内容

 序曲
 ニ長調。4分の4拍子。モルト・ソステヌート・エ・マエストーソ〜アレグロ・エネルジーコ。しばしば単独でも奏される壮麗な名曲。
 まず序奏として、トランペットがAの音、pp からフォルテに膨らんで pp に戻る、長い旋律を3回奏する。続いてヴァイオリンとチェロにレガートで、「リエンツィの祈りの動機〈全能の父よ、守り給え〉」が出る。楽器間を受け渡されて盛り上がったのち、アレグロ・エネルジーコで行進曲のような「リエンツィの寛容を讃える動機」が出る。これらが交互に出た後、「群衆の叫びの動機〈精霊よ、守り給え〉」がトランペットに出るが、これは「リエンツィの祈りの動機」の反行型的構成になっている。最後は「リエンツィの寛容を讃える動機」が歓呼し、堂々と集結する。

 第1幕
 ローマ。14世紀半ば。夜半、リエンツィの邸宅前に、オルシーニを含めた貴族たちが結集している。彼らはリエンツィの妹イレーネを夜陰に乗じて略奪しようとしている。集団のなかの二人がリエンツィの家に梯子をかけ、忍び入る。イレーネを引っ張り出し、連れ去ろうとするオルシーニたち。
 そこへ、貴族アドリアーノ・コロンナとその従者が登場してくる。オルシーニたちとアドリアーノの集団の揉み合いに発展し、アドリアーノはイレーネを取り戻そうと奮闘する。周囲の人間も騒ぎをきいて集まってき、二組の集団を引き離そうとするが成功しない。法王補佐官ライモンドも登場、すったりもんだりしているうちに、リエンツィが登場する。
 リエンツィの登場でようやく騒ぎは収まるが、リエンツィに対し「平民からの成り上がりだ」と侮辱する貴族たち。いっぽう集まってきていた人民とライモンドは、横暴をみせつける貴族たちを罰するようにリエンツィに言う。それぞれ言いたいことを言った人民と貴族たちが退場したのち、リエンツィとアドリアーノは友情を結ぶ。いっぽう、イレーネとアドリアーノの若い二人は、恋情を語り合う。
 やがて、ファンファーレが聞こえ、オルガンや合唱の響きとともに、人民が集まり、そしてリエンツィがライモンドを含めた部下を引き連れ、武装して現れる。
 フィナーレでリエンツィは、市民に向かって自由宣言を行う(〈リエンツィの自由宣言 「気高きローマよ、新しく甦れ!」〉)。合唱がそれに呼応すると、リエンツィはさらに、法を遵守することこそローマ人の自由である、と宣言する。この自由宣言の動機は人々に受け継がれ、そのなかでローマ市民代表者であるチェッコ・デル・ヴェッキオはリエンツィを王位につけようとする。拒絶するリエンツィ。しかしながら、人民を守護するための護民官ならば、と推任を受ける。

 第2幕
  序奏ののち、純白の衣装を着て平和の使節たちが現れる。ホ長調、モデラート・コン・アニマで出る女声合唱は無垢で美しい。代表者がコロラトゥーラ・ソプラノ独唱、ローマの平和と繁栄をたたえるアリアを歌う。続いてリエンツィは平和を宣言し、外国からの使節団に謁見する。しかし平和の宴たけなわな中、貴族たちは、リエンツィ打倒計画を再度練る。しかし既にリエンツィと友誼を結び、かつその妹に思いを寄せる同じ貴族のアドリアーノは、これら計画を阻止せんとする。そんな中オルシーニは剣をふるい、リエンツィの暗殺を試みる。斬られたかに見えたが、リエンツィはかろうじて、衣装の下に着ていた鎖帷子によって難を逃れる。
 そこに、アドリアーノの父ステファーノ・コロンナもまた、反リエンツィの挙兵を行ったとの知らせが到着する。元老院議員たちは秩序維持のため、謀反者どもを私刑にせよと要求する。かくてオルシーニおよびステファーノ・コロンナは捕らえられ、引き出される。しかしながらアドリアーノとイレーネ、彼らのために慈悲をかけてくれるよう願う。人格者リエンツィは、ローマに忠誠を誓わせ、彼ら謀反人たちを許すこととする。アドリアーノとイレーネ、そして民衆は、リエンツィの名を讃える歌をうたう。

 第3幕
 古代フォルム。アドリアーノとイレーネの慈悲、リエンツィの情けにて助けられた謀反者貴族連だが、彼らはついに反乱を起こす。それを知り、アドリアーノは絶望する。リエンツィ側で戦うとなると父親と反目するが、貴族側に立つとリエンツィと仇敵となる。アリア〈公正なる神よ、決定はくだされた〉でアドリアーノはその苦しみとイレーネへの愛を歌う。
 カピトールの鐘がなる。戦の合図である。アドリアーノは貴族連およびリエンツィ、一触即発の両者をどうにか止めるという決心を神に誓う。
 フィナーレでは、トランペットのファンファーレと鐘の音が鳴り、リエンツィは遂にコロンナ率いる反乱軍との戦を宣言する。勇壮な行進曲のあと、リエンツィは変ロ長調で戦闘の動機〈聖なる戦いの神よ〉を歌う。兵士たちもこれに参加する。遂にコロンナ軍は制圧され、コロンナ自身も命を落とす。リエンツィは凱旋してくるが、アドリアーノは父親の遺骸を見て泣き崩れ、リエンツィを罵り、復讐を誓う。

 第4幕
 ローマの街路。ローマ帝国の新しい皇帝は、教皇とむすんでリエンツィを弾圧する。また民衆も平和を維持できないことから、次第にリエンツィに反感を抱くようになってきている。リエンツィはイレーネとともに、感謝祭のためにその従者とともにラテラーノ教会に向かう。市民も集まってくる。市民のなかにも謀反の気運が高まりかけるが、リエンツィは弁舌巧みに彼らをなだめる。アドリアーノはひとり、父親の復讐を企てるが、イレーネの姿をみてその決心は揺らぐ。教会の階段を上り始めたリエンツィだが、ライモンド枢機卿が目の前にあらわれ、リエンツィおよびそのとりまきは教会から破門されたと宣言する。人々は恐れおののき、リエンツィから離れていく。アドリアーノはイレーネに、自分と一緒に来るように説得するが、彼女はそれを拒み、兄のもとを去ろうとしない。それを見て、アドリアーノはひとり立ち去る。

 第5幕
 前奏曲は〈神よ守り給え〉の旋律で始まる。カピトールの広間。リエンツィが祭壇の前で神に祈りを捧げている。リエンツィはここで、序曲でも第5幕前奏曲でも中心的旋律となっている有名なアリア〈神よ守り給え〉を歌う。
 イレーネが入ってきた時、今は神と彼女だけが支えであると述べる。イレーネは兄リエンツィと運命をともにすると訴えるが、リエンツィは彼女に、アドリアーノのもとに行くよう説得する。聞かぬイレーネ。リエンツィが最後の望みをかけ、市民との対話を試みようと去ったのち、アドリアーノが登場する。イレーネを力づくで連れて行こうとするが、彼女はやはり頑として聞かない。
 カピトール前の広場。リエンツィがバルコニーに現れ、憤激した民衆をどうにかなだめようとするが、激昂した民衆は全く聞く耳を持たず、怒号や投石を浴びる。そして民衆は遂に宮殿に火を放つ。リエンツィとイレーネは、炎に包まれる。アドリアーノと貴族の一団が騎馬で戻ってくる。アドリアーノはイレーネを救うためカピトールに飛び込んだ瞬間、建屋は音を立てて崩れおち、3人は宮殿とともに非業の死を迎える。

■付記

 調性感満載、ヴェルディがワーグナーのオーケストレーションで武装しているような風情である。序曲くらいしか耳にする機会があまりない作品ではあるが、通して聴いてもとても楽しい。但し、概要にも記載したように(幕間含めると)総演奏時間は6時間余りになるので、今日では適宜カットした版で演奏される。

(up: 2015.2.9)
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