Symphony No.14 in G-moll op.135
  交響曲第14番《死者の歌》 ト短調 作品135

■作曲 1969年
■初演 1969.10.6 モスクワ音楽院大ホール
  ルドルフ・バルシャイ指揮 モスクワ室内管弦楽団、
  ソプラノ独唱ヴィシネフスカヤ、バス独唱ウラジミロフによる
《楽器編成》
Vo.Soprano Vo.Bass
Violin 10 Viola 4 Cello 3 C.bass 2
Tamtam Triangle Xylophon
Celesta Vibraphone Bass drum Side drum Castanet
WoodBlock Bell Slapstick

■概要

 作曲家ショスタコーヴィチ。独裁者の圧政と官僚主義の無理解とともに歩んだ人生も、終わりに近づきつつあった。1969年のはじめ、彼は心臓の不調で入院するはめになる。その頃に着想されたのがこの曲である。副題を「死者の歌」という(但し本国以外)。独特の楽器編成をもつ、カンタータ形式の作品である。
 思えば1960年、圧力に負けて共産主義者となって後、ただでさえ内向的だった彼の作品は、その独自性と滋味深さ、そして暗鬱さを増していった。弦楽四重奏曲第8番を「遺書のつもりで書いた」と告白したことは有名だが、このころ彼は実際に自殺を図ったこともあるようである。晩年は「過去の作曲家」扱いされることがしばしばあり、初演演奏会の会場が埋まらなかったこともあると伝えられるが、それはこの頃を境にした晩年の、極度に内省的でかつ死の想念を剥き出しにした作風が受け容れられなかった(そして、粛清時代のように「理不尽な死」を覚悟することもなくなったソ連社会ともズレが生じ始めた)ということでもあろう。
 この作品は、弦楽と打楽器、そしてソプラノとバスのための曲である。木管と金管が抜かされており、その意味で音色が透明であり、結晶度が高く、しかも打楽器によるアクセントが非常に印象的である。現代音楽的技法であるクラスターや十二音技法なども使われており(その意味で調性らしい調性をもっているのは前半だけである)、かつてモダニストと呼ばれたショスタコーヴィチの面目躍如たるところである。
 当初、本人としては、この曲の扱いはオラトリオであったようだが、結局交響曲として成立することになった。ショスタコーヴィチは歌曲付きの交響曲をこれまでに三曲作曲しているが(第2番、第3番、第13番)、その掉尾を飾る、決定的な傑作ということができるだろう。

 次々と詩が歌われるが、それぞれ別々の詩人によるもので、すべてロシア語、あるいはロシア語訳である。

■楽章

 第1楽章 〈深き淵より〉 アダージョ。バス独唱と弦合奏(チェロ以外)。テクストはガルシア=ロルカによるもの。〈怒りの日〉の音型を含んでいる。
 第2楽章 〈マラゲーニャ〉 アレグレット。カスタネット、ソプラノ独唱、弦合奏、および独奏ヴァイオリン。テクストはガルシア=ロルカによるもの。マラゲーニャとは民俗舞踊のこと。低弦で出る十二音音型が行ったり来たりする。ヴァイオリンの音色はカミソリのようである。
 第3楽章 〈ローレライ〉 アレグロ・モルト〜アダージョ。むち、ベル、ヴァイブラフォン、シロフォン、チェレスタ、ソプラノ独唱、弦合奏、チェロ独奏。テクストはクレメンス・ブレンターノによるもの。ローレライとはロシア語で「死」の意味である。女性名詞であるそれは擬人化されている。最後、ローレライはライン川に身を投げる。
 第4楽章 〈自殺者〉 アダージョ。シロフォン、二重唱、弦合奏。テクストは、ギョーム・アポリネールによるもの。第3楽章でライン川に身投げしたローレライの後日談。
 第5楽章 〈心して〉 アレグレット。ウッドブロック、タムタム、むち、シロフォン、ソプラノ独唱、弦合奏。テクストは、ギョーム・アポリネールによるもの。力が抜けるような十二音技法の行進曲旋律がシロフォンに出る。
 第6楽章 〈マダム、ごらんなさい〉 アダージョ。シロフォン、二重唱、弦合奏。アポリネールの作品でいえば、第5楽章と対をなす。
 第7楽章 〈ラ・サンテ監獄にて〉 アダージョ。ウッドブロック、バス独唱、弦合奏。テクストはアポリネールによるもの。ピッツィカートとウッドブロック(コル・レーニョ)によって奏される冒頭からの旋律が、独房の水漏れのような印象を与える。
 第8楽章 〈コンスタンティノープルのサルタンへのザポロージェ・コサックの返事〉 アレグロ。バス、弦合奏。テクストはアポリネールによる。最後の部分、ヴァイオリンがそれぞれ半音ずつ音程をずらし、クラスター技法による作曲が試みられている。
 第9楽章 〈おお、デルウィーク、デルウィーク〉 アンダンテ。バス独唱、弦合奏。テクストはヴィルヘルム・キュヘルベケルによる。革命詩人である友人のデルウィークに語りかける形式である。
 第10楽章 〈詩人の死〉 ラルゴ。ヴァイブラフォン、ソプラノ独唱。テクストはリルケの詩による。
 第11楽章 〈むすび〉 モデラート。ウッドブロック、カスタネット、タムタム、二重唱、弦合奏。テクストはリルケの詩による。死は全能と歌われる。不協和音のなか、楽章を終える。

■蛇足

 作家である井上太郎は、『レクイエムの歴史』のなかで、この曲を一種の「レクイエム(の傑作)」として位置づけ、評価している。

(up: 2008.2.29)
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