やっぱりボロディン四重奏団。分売が見つからなかったので作品集。2,3,7,8,12 番が入っている。




String Quartet No.3 in F-Dur op.73
  弦楽四重奏曲第3番 へ長調 作品73

■作曲 1946年
■初演 1946.12.16 モスクワ モスクワ音楽院小ホール
  ベートーヴェン弦楽四重奏団による
《楽器編成》
Violin 2 Viola Cello


■概要

 構えない気持ちで習作のように作って典雅な弦楽四重奏曲第1番、そして弦楽四重奏曲作曲の楽しさに興が乗って本腰を入れた作曲でシンフォニックな装いを帯びた第2番を経て、ショスタコーヴィチは第3番を完成させた。第2番完成の2年後であり、「大祖国戦争」の勝利をまたいでいる。
 最終的にはこのジャンルを生涯通して、交響曲と同じく 15曲書くわけだけれども、弦楽四重奏曲に取り組んだのがやや遅かったショスタコーヴィチゆえに、この弦楽四重奏曲第3番が完成した時点で既に交響曲は9曲完成されている。そして計5楽章の形式と曲想を見る限り、この弦楽四重奏曲第3番のコンセプトは、3年前に作曲された交響曲第8番の構想と重なっているといえる。
 戦勝ムードの中、前年の交響曲第9番で存分におちょくっておいて、この弦楽四重奏団第3番で戦争指導陣そっちのけで民衆の鎮魂を行う。ショスタコーヴィチらしい、もっといえばショスタコーヴィチらしさに誠実な楽想だといえよう。
 なお、ショスタコーヴィチ自身、この曲を自分の作品の中で最も成功したものの一つと考えていたようである。

 この曲も、彼の室内楽曲がいつもそうであるように、やはり友人に捧げられた。この第3番はピアノ五重奏曲初演以来ショスタコーヴィチと関係浅からぬベートーヴェン弦楽四重奏団に捧げられた。

■楽章

 第1楽章 アレグレット ヘ長調 4分の2拍子。まず明るい音色で、第1主題が第1ヴァイオリンに出る。ポルカ風でピョンピョン飛び跳ねているが、ヘ長調のB♭が安定せず、ナチュラル化したりしなかったりするので、あくまで跛行するポルカである。続いて抜き足気味のフリギア旋法の第2主題。提示部の反復が行われたのち、展開部の場所には、第1主題の要素にて構成され第2主題を対位主題とした見事な二重フーガが置かれている。再現部は標準的だが、結尾部で第2主題を展開しかけるのはショスタコーヴィチらしい技巧といえよう。交響曲第9番の第1楽章結尾を想わせる。
 第2楽章 モデラート・コン・モート ホ短調 4分の3拍子。スケルツォ風。ヴィオラの分散和音オスティナートの上に、第1ヴァイオリンが第1主題を奏するが、これは極めてバロッコ的、歪んだ真珠的で、調性が安定しない上にスタッカートがぎらぎら輝いている。第2主題は何か歪んでいく踏切の音を彷彿とさせるような高音のスピッカート。この後第2主題は4回繰り返されるわけで、形式上はロンドだが、ショスタコーヴィチの諧謔は常にそのような「形式主義的な」聴き方を割りにくる。のちアダージョで粛々と終わる。
 第3楽章 アレグロ・ノン・トロッポ 嬰ト短調 4分の2拍子〜4分の3拍子。トッカータ。戦勝パレードのパロディである。つねに4分の2拍子〜4分の3拍子が交替する切迫した旋律がまず第1ヴァイオリンに出るが、その尻尾についている B から急速に落ちる下降音型はやはり皮肉めいている。のちヴィオラにパレードを先導する道化のような第2主題が出る。どんと盛り上がったのちに冒頭主題が帰ってきて、大きな音で終わる。
 第4楽章 アダージョ 嬰ハ短調 4分の4拍子。パッサカリア形式。哀しみの楽章。まず主題冒頭はユニゾンで力強い詠唱のようだ。主題後半は第1ヴァイオリンが歌い上げる。主題は聖書の手本に従い、計7回繰り返される。第2変奏はチェロが悲哀の歌を歌う。第3変奏は第1ヴァイオリンが再度美しく歌う。第4変奏は一種の展開部でもあり、力強く盛り上がる。第5変奏はチェロとそれ以外の対話が行われ、第6変奏は葬送行進曲となり、最後はチェロが次楽章への橋渡しを行う。
 第5楽章 モデラート ヘ長調 8分の6拍子〜4分の2拍子。ロンド・ソナタ形式。ヘ長調に戻ったが第1楽章冒頭の明晰さは帰らない。第1主題はそのままチェロに出るが、第1楽章第1主題の変形である。断片がヴァイオリン以下に引き継がれ、変奏されていく。第2主題はワルツ的な楽想で、これは第2楽章第1主題の変形であるが、より楽天的である。断片が延伸していって接合される第3主題は第3楽章第2主題の変形。のち印象的な第4楽章の主題が出る。最後はアダージョとなり、第1主題に回帰した旋律が各楽器に受け渡され、ピッツィカートとともに静かに曲を終える。

■付記

 個人的には第8番と並んでショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のなかで最も好きな曲。技巧的で、少し諧謔で、しかし真摯な祈りが聴かれる。

(up: 2015.1.21)
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