既に交響曲全集を完成させたヤンソンス指揮の一枚物。オケがバイエルン放送響で、非常に上手い。すっきりとまとめている。併録は12番だが、この、駄作ともいわれる交響曲を魅力的に、スケール雄大に鳴らしている。合わせ技一本。




Symphony No.2 in H-Dur op.14 "To Octover"
  交響曲第2番《十月革命に捧げる》 ロ長調 作品14

■作曲 1927年
■初演 1927.11.5 レニングラード
  マリコ指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団による
《楽器編成》
Chorus
Pc.Fr. 2 Ob. 2 Cl.2 Fg. 2
Hr. 4 Tromp. 3 Tromb. 3 Tuba Tim.
1st Violin 2nd Violin Viola Cello C.bass
Symbal Tamtam Triangle
Glockenspiel Siren (F#) Bass drum Side drum


■概要

 ソヴィエト、というともう、どこか歴史の響きがある。
 ソヴィエト社会主義共和国連邦、いわゆるソ連が解体して、はや20年にならんとしている。そもそもこの、壮大なる実験国家の名称の頭につく「ソヴィエト」というのが、もともとは「労兵評議会」の名称であることを、歴史好き以外のどのくらいのひとが憶えているだろうか。

 1910年代のロシア、この遅れてきた貴族主義国家では、ツァーリ、つまり皇帝の力が乱脈を極めていた。巨大なチンコが標本になっていることで有名な怪僧・ラスプーチンが暗躍したのもこの頃である。
 1917年、虐げられ続けた労働者は遂に吶喊の声を上げる。ロシア帝国の首都・ペトログラードで、大規模なストライキが発生したのをきっかけに、蜂起する労働者に助力する軍人の力も相俟って、革命運動が広まってゆく。既に1905年、、ペトログラード(後のレニングラード;現在のサンクトペテルブルク)に生まれていた「ソヴィエト」つまり労働者と兵士の協力組織が全国各地に出来はじめる。ロシア革命の始まりである。
 1917年3月8日(ロシア・ユリウス暦では2月23日)、国会はソヴィエトの力に圧され、あっさりと皇帝を退位させる。これなん三月革命(ロシア暦に準じて二月革命ともいう)である。更に4月、スイスから希代の理論的政治家レーニンが帰ってくる。彼は四月テーゼを出して革命的方針を明示し、武装蜂起を繰り返して遂に11月7日(露暦では10月25日)、臨時政府を打倒、全ロシア=ソヴィエト大会を開催して新政府「人民委員会議」を発足させた。

 さて、われらがショスタコーヴィチは、そのような「革命的」機運が盛り上がりつつある1906年、しかもロシア帝国の首都ペトログラードに生まれている。のちの恐怖政治をもたらすスターリニズム的共産主義に対する思いはともかく、民衆のエネルギー、「エラン・ヴィタル」(ベルクソン)を目の当たりに感じた彼としては、この一連の革命運動にひとかたならぬ思いを感じていたことだろう。実際、この「三月革命 - 十月革命」のモチーフは、ここに記載する交響曲第2番《十月革命に捧げる》 - 交響曲第3番《メーデー》で取り上げられたのち、交響曲第11番《1905年》 - 交響曲第12番《1917年》でも主題として用いられている。

 ひるがえって、第1番交響曲が成功裡に終わったショスタコーヴィチ。これは確かに、文化的鑑識眼が肥えたペトログラードの聴衆に圧倒的な支持で迎えられた。ところが、プロレタリア・ロシア音楽家協会(RAMP)の評価は決して高いものではなかった。また、地元のレニングラード現代音楽協会もショスタコーヴィチの仕事に対しては冷ややかで(当時のメインストリームだったリムスキー=コルサコフ派に、彼が親和的ではなかったからだという話もある)、彼は孤立の度を深めた。
 そんな中、ソヴィエト国立出版所の音楽局宣伝部が1927年3月、「十月革命十周年」の記念作品を彼に委嘱する。そして彼ショスタコーヴィチは、現代音楽的手法と革命歌的歌謡性を伴った作品を完成させる。同年11月に行われた初演は成功をおさめ、一定の評価を得た。

■楽章

 単一楽章により成る
 曲想の展開により三部に分けられるため、各部を紹介する。

 ラルゴ部分 まず導入部はラルゴで始まる。大太鼓、ピアニシモで叩かれるトレモロの上に薄く、細かい弦の刻みが細分の度を高めてゆく。雑踏で、霧が晴れてゆくような雰囲気である。トランペット・ソロが大きく跳躍するフレーズを出す。

 アレグロ部分 チェロとコントラバスに動機が出る。ショスタコーヴィチ特有の、つんのめるような旋律である。クライマックスの後に登場する低弦は一瞬マーラーの第2交響曲冒頭を思わせるが、直後にソロ・ヴァイオリンのスタッカートで始まるフガートは、紛う方なきショスタコーヴィチ風である。ここは27声部による「ウルトラ・ポリフォニー」によって成り立っており、27の独立した部分がそれぞれの旋律を奏し、それがまさに混沌たる群衆の「エラン・ヴィタル」を示して余りある。ヴァイオリンの旋律を中心に纏まる方向に流そうにも纏まりきれない、しかし力だけは、誰にも束縛されぬ、また誰も制御しようのない不気味な力だけは膨大してゆく、そのような感じである。

 モデラート部分 打楽器とともにサイレンが鳴り、合唱部が始まる。前の部分と相違して歌謡的、全音進行的である。「われわれは歩き、仕事とパンを乞い、心は万力で哀しく締め付けられているかのようだった」と歌は始まるが、のちの同合唱付き交響曲第13番《バビ・ヤール》第14番のような暗鬱はここにはなく、あくまでも上昇するような躍動に満ちており、最後は「10月、コミューン、そしてレーニン」とシュプレヒコールで締めくくられる。

■蛇足

 タコさんはこの作品を称して「交響曲というよりは、交響的ポエムです」と述べている。20分余りの作品で、まず「雄大さ」を思い浮かべるいわゆる「交響曲」としては小型である。しかしながらタコさんの魅力は満点であり、時代的なモデラート部分はともかく、中間アレグロの部分は非常に面白い響きがする。のちのリゲティの仕事もかくやと思わせる。

(up: 2009.11.18)
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